従来、アルファ鉄系材料の塑性変形は、バーガースベクトルが1/2<111> の転位によって担われると考えられてきた。一方、「高エネルギー転位」である <100> 転位は、安定には導入できない転位として無視されてきた。<100> 転位は、1/2<111> 転位に比べて移動度が極めて低く動きにくいと考えられるため、主な転位の種類を<100>転位に変えることのみによって、鉄を強化できると期待される。本研究では、<100> 転位を利用した鉄系材料の全く新しい強化原理を開拓することを目的とする。このために、<100> 転位を主な転位源として優先的に導入するための条件を探索し最適化する。また透過電子顕微鏡観察によって、<100> 転位の移動度等を評価し、<100> 転位による鉄の強化への影響の程度を明らかにする。本研究は、最も重要な構造材料の一つであるフェライト鋼材料の革新的な改良の基盤となるものである。 本年度は、純鉄を対象として、塑性変形によって <100> 転位をどれだけ優先的に導入し得るか否かを調べた。その結果、高エネルギー電子照射を利用して、<100> 転位を優先的に導入し得ることを世界に先駆けて明らかにした。 さらに、二つのナノ 1/2<111> 転位の合体による <110> 転位ジャンクションの生成過程について論文化した。この過程は、従来の分子動力学計算によっては再現されていないものであり、このような個々の転位挙動についての実験研究の意義を強く示すものである。
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