研究課題/領域番号 |
15K14115
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
福島 潤 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80634063)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マイクロ波プロセッシング / マイクロ波効果 / 発光分光 / 選択加熱 / 還元反応 / 還元型酸化チタン |
研究実績の概要 |
材料合成の短時間化・省エネルギー化に資する、マイクロ波を用いた材料化学プロセスの研究が活発に展開されている。これら研究の中で、化学反応の駆動力が、熱に加えて、マイクロ波電磁場そのものより供給されるという仮説に至った。本反応では、熱エネルギーによらない化学反応パスを利用することで、化学反応に係るエネルギー効率を高めることにつながる。本反応系のエネルギーパスを解明し、材料化学プロセスに資することが本研究の目的となる。 目的達成のため、本研究では、マイクロ波照射時の熱的な効果と非熱的な効果を、分光測定により完全に区別することに挑戦する。H27年度は、自作が完了している二次元分光システムと、シングルモード型 マイクロ波加熱炉のセッティングを行った。上下粗動用リフターの上に、精密XY軸ステージおよび精密Z軸ステージをセットすることで、シングルモードキャビティにおけるサンプル加熱実験時におけるピント調整を高精度に行うことが可能となった。また、分光ミラーの二次元走査制御に使用するファンクションジェネレータなど、分光器周辺機器のセッティングも完了し、本実験をスムーズに遂行できる環境が整った。上記実験装置を用いて、還元型酸化チタン(アルゴン中・雰囲気炉で作製)の自然充填粉末を、マイクロ波電場強度最大部分・磁場強度最大部分において加熱しながら、試料の発光分光および可視動画取得を行った。可視画像の空間分解能は20ミクロン程度であり、高温下において粉末ごとの選択加熱状況が可視動画で観察できた。還元型酸化チタンの磁場最大部分での加熱において、550 nm近傍の分光実験では、熱輻射スペクトルと異なる発光が0.5秒の露光時間において観察されているが、誤差の範囲内の可能性もあり、現在スペクトルの解析中である。また、非平衡還元がNiMn2O4でも起こることがわかり、本系での実験を行うこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)イメージング分光システムとシングルモード型マイクロ波加熱炉のセッティングについて H27年度中に、自作が完了している二次元分光システムと、シングルモード型 マイクロ波加熱炉のセッティングを行うことができたため、当初の計画通り進んでいる。上下粗動用リフターの上に、精密XY軸ステージおよび精密Z軸ステージをセットすることで、シングルモードキャビティにおけるサンプル加熱実験時におけるピント調整を高精度に行うことが可能となり、実験の試行回数・精度を上げることに成功した。また、分光器周辺機器のセッティングも完了し、実験データの取得を効率よく行う素地ができ、実験結果の解析に注力できる環境を整えることができた。 2)マイクロ波印加中の酸化物加熱における、紫~紫外域のスペクトルに着目した発光分光実験 還元型酸化チタンをアルゴン中・雰囲気炉で準備し、ターボ分子ポンプを利用した高真空装置中で、自然充填粉末を、マイクロ波電場強度最大部分・磁場強度最大部分において加熱することに成功している。本実験中に、試料の発光分光および可視動画取得を行うことが出来ており、当初の予定通り研究が進んでいる。分光実験では、高温サンプルからの発光によって得られる熱輻射スペクトルが観測できており、分光器のセッティングも申し分ない。分光実験では、熱輻射スペクトルと異なる、輝線スペクトルらしき発光が0.5秒の露光時間において観測に成功しており、本年度中の進捗としてはおおむね順調である。また、非平衡還元がNiMn2O4でも起こることがわかったのは収穫であり、本件に関する論文投稿を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
・マイクロ波印加中の酸化物加熱における、紫~紫外域のスペクトルに着目した発光分光実験について 本実験で得られた輝線スペクトルが熱輻射スペクトルと比較して十分な大きさではなく、非熱的効果を証明するために有意な差であるといえる状況ではない。再実験、およびスペクトル解析を通じて、本輝線スペクトルから導かれる非熱的効果を証明したい。検討するファクターは、マイクロ波加熱時の電場強度・磁場強度分布、試料温度に加え、分光器側の設定である露光時間および分光波長域と多いため、まず電場強度・磁場強度に着目し実験を行う。材料に関して、まず還元型酸化チタンの実験を集中的に行い、輝線スペクトルが有意に得られなければ、NiMn2O4および鉄酸化物実験を行う予定である。 ・熱スペクトル解析による温度の同定について H27年度中に、熱スペクトルの取得及び選択加熱の可視動画観察に成功している。本実験で得られた熱スペクトルの解析により試料の温度を同定できると考えられる。特に、分光器の空間分解能は10ミクロン程度であると考えられ、従来不可能であった局所的な温度・放射率を決定できると考えられる。一方で、分光精度を高めるために、サンプルの平面出しが必要であることがわかり、そのために必要な石英製治具を製作中である。膨大なデータを効率よく解析するためのプログラミングソフト導入の必要性が生じたため、本年度は本ソフトの導入と、解析プログラム作成による局所温度同定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度は、主に分光器のセッティングに注力し、研究成果の発表等を次年度に延期したため、次年度仕様学が生じた。また、分光実験におけるプログラムソフト導入を予定していたが、当初計画していた実験が、高真空装置の故障により遂行できなくなったため、これを次年度導入とした。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度は、分光器を利用した実験が主となり、マイクロ波キャビティ、石英管等の消耗品費が主な仕様用途となる。また、上記プログラムソフトの導入資金に加え、高真空装置の部品購入に充てる。
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