マイクロ波プロセスは、材料合成時間の短縮が可能となり、省エネルギー化が期待されるため、材料化学プロセス研究が活発になされている。これら研究の流れの中で、マイクロ波印加下における化学反応の駆動力が、マイクロ波エネルギー緩和による熱エネルギーのみならず、そのエネルギーそのものより供給されるという仮説に至った。この特殊なエネルギー遷移過程では、熱緩和を経ずにエネルギーを化学反応に用いることが可能となるため、化学反応のエネルギー効率を高めることにつながる。本研究は、本反応系のエネルギーパスを解明し、材料化学プロセスにおける新しい学理を構築することにある。 この目標達成のため、マイクロ波照射時における熱的な効果と非熱的な効果を、分光測定により完全に峻別することに挑戦した。平成28年度は、前年度に測定系の構築を完了したマイクロ波印加下その場分光システムを用いて、酸化チタンの還元反応におけるその場分光測定を行なった。その結果、マイクロ波電場強度最大部分・磁場強度最大部分における実験おいて、熱輻射に由来する連続スペクトルとは明らかに異なる輝線スペクトルが確認された。その強度は予備実験とは異なり非常に強いもので、再現性も認められた。また、電場・磁場下でのそれらの発光は特徴が異なるものだった。このスペクトルは4.9µm四方の非常に局所的な部分からしか発光されず、0.5秒の露光時間のみ観察されるものであった。磁場中照射ではTi(Ⅰ)の発光と考えられるピークが観察され、マイクロ波照射により、数eVオーダーのエネルギー励起を生じさせることが出来ると考えられる結果を得た。一方で、電場照射時の発光は磁場中の場合と比較して高エネルギー側で生じており、窒素分子からの発光であると推察されるピークであった。
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