研究実績の概要 |
本年度はNa3Zr2Si3PO12(NASICON), NaMgPO4, NaLa(PO3)4, Li3Sc2(PO4)3, Li5La3Nb2O12の各結晶についてAP置換処理を行い,プロトン伝導体の作製を試みた。残念ながら,いずれの場合もAP置換により1×10-4Scm-1程度以上の高いプロトン伝導性を達成することはできなかった。特に,Li5La3Nb2O12は水溶液法でのLi+→H+のイオン交換で,高いプロトン伝導度が達成されているとの報告があるにもかかわらず,AP置換ではそれが再現できず,より詳細な検討が必要であることを示唆した。NASICONでのAP置換では以下の興味深い現象を見出した。AP置換によりアノードから深さ200 μmまでの領域ではNaはほとんど存在せず、それより深い約360 μmまでの範囲でもNa濃度は減少し,その領域でAP置換が進行し,プロトンの注入に成功した。Na+イオンからプロトンへの置換が完了した領域のXRDではNASICONの回折線は消失し、プロトン化したNASICON、すなわちH3Zr2Si2PO12はアモルファスであることが分かった。プロトンへの置換率が50%程度まではNASICON結晶が維持されており,この時のAP置換による格子の体積収縮率は約2%である。50%以上の置換率では概ね4%以上の体積収縮が生じていると推察され,その場合には内部圧縮応力が大きくなり,アモルファス化の機構は高圧印加によるそれと同様であると推察している。NASICON中に注入されたプロトンは500℃まで安定であること,プロトンの伝導度は400℃で3.2×10-7 Scm-1であることなども明らかとなった。
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