研究実績の概要 |
本研究では、遷移金属窒化物の物性を第一原理計算および実験により調べ、遷移金属元素の個性がどのように現れるかを議論する。最終的には、化学者が持っている元素の個性に関する化学的直観を用いて、化合物の電子状態を実験化学者が理解するためのより直観的かつ本質を捉えた方法論へ展開することが大目標である。初年度であるH27年度は、3d遷移金属(Sc~Cu)のモノナイトライドの安定性(凝集エネルギー、生成エネルギー)の計算結果を行い、元素の違いによるその特徴的な振舞の根源を理解することを目的とした。Sc~Coまではモノオキサイドとモノナイトライド双方の存在が知られているのに対し、後周期のNi, Cuではモノオキサイドは知られているがモノナイトライドは明確な結晶相としての報告がなく合成困難である(実際、我々の過去の薄膜実験でもNiNの薄膜合成の試みは成功していない)。このことには、元素の個性に基づく深い理由があるはずである。第一原理計算を元素に関する化学的知識をもとに解釈することにより、その理由を明らかにすることを一つの目標とした。凝集エネルギーを計算したところ、Sc~Cuのすべての元素において、モノナイトライドとモノオキサイドともに凝集エネルギーが十分負の値であり、NiN, CuNに特段の特徴は見られない。一方、生成エネルギーは、CoとNiの間で、モノナイトライドでは符号が反転しNiN, CuNでは正となった。モノオキサイドはNiO, CuOを含めて生成エネルギーが負である。この計算結果は、3d遷移金属のモノナイトライド、モノオキサイドのうち、NiN, CuNだけが合成できていないことによく対応している。すなわち、NiN, CuNは窒素分子を放出して金属に分解する反応に対して安定でない可能性が示唆されている。MBE装置を用いた実験でもこれに矛盾しない結果が得られた。
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