研究課題
5d電子系酸化物を基礎とする革新的な機能性材料シーズの開発を目指して、最も単純な5d1の電子配置を持つ新規酸化物の創製と特性評価に取り組んだ。多くの5d電子系酸化物が共有する強固な機能結合(スピン―フォノン結合、スピン秩序―格子歪みの結合、スピン秩序―電気伝導性の結合など)は機能性材料の新規開発に有効だと期待できたため、それらの特徴が顕著で、さらに材料化に適したシーズの創製、関連物質・周辺物質の探索を課題として。5d1の電子配置を持つ研究対象として、オスミウム7価、レニウム6価、タングステン5価の酸化物を検討した。オスミウム7価は、毒性が強い8価に近いため、実験管理上の制約が多く、対象外とした。また、レニウム酸化物は化学的に不安定な場合が多く、材料としての扱いが難しいと予見されたため、対象外とした。本課題では、これらの問題が最も少ないと期待できたタングステン5価の酸化物に注力して、新規タングステン酸化物の探索を進めた。より具体的には、K2NiF4型構造(銅酸化物高温超電導体の母構造)を有する5d1タングステン酸化物の新規合成を進めた。層状構造を有する5d1タングステン酸化物はおそらく合成例がまだなく、成功すれば、元素置換や連続固溶体の合成、キャリアードーピング、圧力効果、不純物効果などの実験を通して、5d電子系の材料研究の基礎基盤の充実を期待できた。H28年度は、前年度に引き続き高温高圧環境を含むさまざまな合成条件下で検討を進めたが、目的とする層状タングステン酸化物の合成には至らなかった。しかしながら、実験の過程で、少なくとも化学組成が新しいと思われる複数のタングステン酸化物の合成に成功した。それらの化学組成の解析や結晶構造の精密化を進め、さらに基礎物性を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
A4Na2W2O11(A = Ca, Sr, Ba)を理想組成とするタングステン酸化物を合成し、その結晶構造、化学組成を明らかにした。基本構作りは2重ペロブスカイト型に相当するが、化学量論組成が不定比であることが明らかになった。それぞれのタングステンの価数を明らかにするため、磁化測定を行ったところ、ほぼ非磁性を示す結果であったため、想定した5d1の電子配置ではなく、すべてが、ほぼ5d0の電子配置を持つと推定された。電子配置が想定した状態と異なり、磁気的電気的に不活性であったが、イオン電導性に特徴がみられたため、さらに調査を進めている。また、 A = Mgでも同系物質の合成を試みたが、組成、結晶構造が異なる酸化物が合成された。この物質の構造解析、特性評価を進めている。
昨年度に引き続き、合成条件やカウンター元素の種類を変化させ、5d1の電子配置を持つ層状タングステン酸化物の探索を継続する。さらに、これまでの過程で合成された新規タングステン酸化物の特性評価を進める。特に、イオン電導性に特化した特性評価を進める。
研究業務員1名相当の人件費を確保したが、高圧合成実験で使用する実験消耗品の追加購入が必要となる見通しとなったため、新規雇用をキャンセルしたため。
H29年度は最終年度であるため、実験計画に遅延が生じないように実験消耗品の追加購入を継続する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 5件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
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