研究課題
本研究の目的は、スピン偏極陽電子消滅法(SP-PAS法)を用いて、酸化亜鉛(ZnO)などd0強磁性を発現する化合物半導体材料において、原子空孔に局在した電子スピンが強磁性発現の原因であるかを明らかにすることである。研究開始当初は、多量の空孔を容易に導入することができるZnO/NiO混合酸化物の焼結体での空孔評価を計画・着手した。しかし生成時にすでに多種の空孔を含んでいる粉末ZnOでは、導入空孔のサイズおよび量を精緻に制御することが困難であることが判明したため、ZnO単結晶にイオンビームを用いて精度よく空孔を導入する手法を主とした。試料には水熱合成ZnO単結晶を用い、自己イオンである酸素イオンを100keVで照射し、表面より200nmまでの深さに高濃度な欠陥層を形成した。この試料に対し磁化測定を行ったところ、照射量の増大に伴う磁化の増大が検出された。同じ試料を用い、SP-PAS法により消滅ガンマ線強度の測定磁場反転非対称性(磁気ドップラー(MDB)スペクトル強度)を測定したところ、照射量の増大に伴うMDBスペクトル強度の増大が見られた。陽電子はZnO中の亜鉛空孔を主に検出するため、これは亜鉛空孔での局在電子スピンの存在を示している。更に磁性と空孔の熱焼鈍特性を調べ、両者が良く一致することを確認した。これは、原子空孔と電子スピンを同時に検出できるSP-PAS法を用いて初めて実験的に見出されたことであり、多くの理論計算の元となっているカチオン原子空孔説(カチオン原子空孔にスピンが存在することで磁性が誘起される)を実験的に裏付けることに成功したものである。以上の結果は論文にまとめ(Appl. Phys. Lett誌)、更にプレス発表を行い成果の普及に努めた。
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陽電子科学
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QST Takasaki Annual Report 2016
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http://www.qst.go.jp/information/itemid034-002172.html