本研究は,新しいバイオマス由来繊維として注目されているセルロースナノファイバーを樹脂系複合材料の強化繊維としての使用した際の更なる高強度化を目指している.これまでに多くのセルロースナノファイバー強化複合材料の報告例があるが,セルロースナノファイバーの優れた強度特性を生かした樹脂系複合材料の開発には至っていないのが現状である.本研究ではこの高強度化を阻害する要因として,セルロースナノファイバーの配向に注目した.そして,樹脂マトリックス中のセルロースナノファイバーの配向を延伸方向へ変化させることによって(つまり一方向化)セルロースナノファイバー強化複合材料のさらなる高強度化に対する可能性を検証するために実験と理論の両面から総合的に研究を行った. 今年度は,昨年度までに実験的に確認している延伸処理による繊維配向の程度を定量的に評価するためにこの繊維配向に関する理論的検討を行った.母材にポリビニルアルコール(PVA)を用いて試作したセルロースナノファイバー強化複合材料を弾性体と見なし,この複合材料に一軸延伸ひずみを与えた時の繊維配向角度に及ぼす延伸ひずみ量,初期繊維配向角度,複合材料のポアソン比の影響について理論式を導出し,この式の妥当性について検証した.その結果,計算結果と実験結果はほぼ一致することを確認した. この理論的検討に加えてさらにセルロースナノファイバー強化複合材料に対する強度試験を行って,延伸による強度特性の改善率に及ぼす複合材料中のセルロースナノファイバー添加量の影響について調査した.その結果,セルロースナノファイバー添加量が5wt%,10wt%のセルロースナノファイバー強化複合材料の場合,延伸ひずみが増すにつれてその強度特性(引張強さとヤング率)が向上し,その向上率もセルロースナノファイバー添加量の増加に伴って大きくなることを確認した.
|