研究課題/領域番号 |
15K14149
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松島 敏則 九州大学, 最先端有機光エレクトロニクス研究センター, 准教授 (40521985)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機・無機ペロブスカイト / トランジスタ / ホール移動度 / 電子移動度 / DFB共振器 |
研究実績の概要 |
本研究は、レーザー発振の閾値が低い有機色素を導入した有機・無機ペロブスカイト化合物を半導体層としたトランジスタとDFB共振器を組み合わせることにより、有機半導体レーザーの実現を目指すものである。本年度は、シリコンウエハ基板上にペロブスカイト薄膜をスピンコートし、その上に金のソースドレイン電極を形成させることでトランジスタを作製することから着手した。ペロブスカイトに有機色素を導入する前段階として、手始めに既存の材料(ヨウ化スズとフェネチルアンモニウムアイオダイド)を用いてペロブスカイトを成膜した。ペロブスカイトのスピンコート条件、基板の表面処理条件、およびトランジスタ構造を最適化することで、ペロブスカイトトランジスタ特性を大幅に向上させることに成功した。最大で26cm2/Vsのホール移動度、1.7cm2/Vsの電子移動度が得られた。本研究で得られたキャリア移動度は、これまでにペロブスカイトトランジスタで観測された移動度と比較すると最も高い値であった。特にホール移動度は、過去のペロブスカイトトランジスタで報告された最大のホール移動度よりも1桁高く、単結晶有機トランジスタで得られたホール移動度に匹敵していた。この結果を用いれば、ペロブスカイトトランジスタのディスプレイ駆動回路などへの応用が期待される。ペロブスカイトトランジスタをp型駆動およびn型駆動させることにも成功したために、今後、アンビポーラトランジスタや発光トランジスタの研究へと展開することができる。また、本研究を遂行するにあたって重要なDFB共振器の作製にも取り組んだ。電子線リソグラフィー条件とドライエッチング条件を最適化することで、シリコン基板上に高精細なラインパターンを形成させることに成功した。このDFB共振器上に有機薄膜を成膜し、光励起によりレーザー発振させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は高性能なペロブスカイトトランジスタの作製に成功し、極めて高いホール移動度と電子移動度を実現した。既にいくつかの問題点が分かってきているので、さらに高移動度化が可能である。電子移動度はホール移動度よりも大きく劣っていたが、p型駆動とn型駆動の両方に成功しているので、今後、アンビポーラトランジスタや発光トランジスタの研究へと展開することができるようになった。最も大きな問題はペロブスカイト薄膜の発光量子収率が極めて低いことである。今後、成膜条件や表面処理条件をさらに最適化したり、有機色素を導入することによって、発光量子収率を向上させたいと考えている。極めて高いキャリア移動度が得られ、DFB共振器の作製には成功しているが、有機色素のペロブスカイトへの導入に関しては遅れており、総合的には「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、遅れているペロブスカイトへの有機色素の導入を中心的に研究したいと考えている。用いる有機色素のサイズは非常に重要で、サイズが大きすぎるとペロブスカイト構造が形成されない。ペロブスカイト構造が形成されても、適切なサイズの有機色素を用いないと、無機層の骨格が歪んでしまい、導電率が大幅に低下する。そこで、様々なサイズの有機レーザー色素をアミノ基で修飾し、実際にペロブスカイト構造中への導入を試みる。また、さらにペロブスカイトトランジスタ特性を向上させるために、材料や作製条件の最適化を行う。最終的には、ペロブスカイト、トランジスタ、DFB共振器を組み合わせ、有機半導体レーザーを実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はトランジスタ構造およびDFB共振器の最適化に注力したために、当初の予定にあった有機レーザー色素の合成まで手が回らず予算が余ってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額を使って試薬を購入し、有機レーザー色素の合成を行う。
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