研究課題/領域番号 |
15K14152
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
村上 恭和 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30281992)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 磁性微粒子 / 自己組織化 / 電子顕微鏡 / コロイド / その場観察 |
研究実績の概要 |
本研究は、コロイド環境にある磁性微粒子を透過電子顕微鏡(TEM)で直接観察し、液相中で起こる自己組織化の基本的性質を理解することを目的とする。この研究目的を達成するために、平成27年度は実験基盤となる「溶媒を含むTEM試料の作製」と、コロイド試料をTEM観察する際に注意を払うべき「最適な電子照射条件の決定」について研究を実施した。 まず「溶媒を含むTEM試料の作製」については、研究対象とする25 nm径マグネタイト微粒子の不要な凝集を妨げるのに最適な溶媒の選定を行った。研究協力者の米国ワシントン大学・Krishnan教授の支援を受けて調査を行ったところ、アルコールやアセトンの有機溶媒は不要な凝集を招き、磁気力が自己組織化に及ぼす影響を詳細に評価することが難しいことがわかった。調査の結果良好な溶媒と認められたのはクロロホルムやトルエンであり、本研究ではこれらの溶媒を利用する方針とした。このうち、クロロホルムに分散させたマグネタイト磁性微粒子をアモルファス窒化ケイ素膜で包み込み、TEM観察を試みた。これに関して、150 nmの液厚で自己組織化形態を詳細に評価するために、微粒子濃度(液中の粒子密度)の最適値の決定を行った。 一方、「最適な電子照射条件の決定」については、電子線照射に伴う試料(液体を含むアモルファス窒化ケイ素膜)の温度上昇、加速電圧200 kVの電子線照射に伴う微粒子の損傷等を詳しく調査し、TEM観察に適した実験条件を幾つか決定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の理由から、現時点での進捗状況はおおむね順調なものと考えている。 研究実績の概要欄で記した通り、平成27年度の研究目的として「溶媒を含むTEM試料の作製」と「最適な電子照射条件の決定」の二課題を設定し、磁性コロイドのTEM観察という難しい実験に対する基盤技術の確立を試みた。「溶媒を含むTEM試料の作製」については、当初選定に時間を要することが懸念されたが、本研究に関わる連携研究者や研究協力者との緊密な情報交換、或いは各自の研究スキル・ノウハウを相補的に活用した結果、短期間で系統的な調査を実施することができた。微粒子の不要な凝集を妨げるのにクロロホルムが有効である結果を導いた後も、TEM用試料ホルダーに用いる材質とクロロホルムの親和性の調査を行い、本件については安定した実験条件の確立を達成することができた。 液体状の試料を高真空の電子顕微鏡へ導入するためには、溶媒の蒸発を防ぐこと、試料に対する電子線の透過を保証すること、25 nm径マグネタイト微粒子の自己組織化を立体的に観察できる程度の液厚を確保することなど、幾つかの条件を同時に満足させる必要がある。本研究では液体を封じ込めるために、電子線に対する透明度を有する50 nm厚のアモルファス窒化ケイ素膜を利用した。また窒化ケイ素膜で挟み込む液相の厚さは少なくとも150 nmの値を確保する必要があることがわかった。また、本研究が対象とするマグネタイト微粒子は、クロロホルム中で長時間電子線照射を行うと形態・構造の変化を被ることがわかり、観察条件に関わる重要な知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果を踏まえて、平成28年度はクロロホルム溶液中に分散させた25 nm径マグネタイト磁性微粒子の自己組織化形態の観察と、同形態に対する磁場効果の理解を図る。 まず前年度に確立した技術を駆使して液相試料を作製し、加速電圧200 kVの条件で(1) TEMモード、(2) STEMモードでの形態観察を試みる(STEM: Scanning Transmission Electron Microscopy)。TEMモードでは広範な領域に一様な輝度の電子線を継続的に照射できる利点がある一方、像のコントラストが弱く、アモルファス窒化ケイ素で包み込んだ微粒子を明瞭に観察できない場合もある。一方のSTEM、特に暗視野モードで行うSTEMの実験では、像強度が原子番号の大小を反映した状態となるため、Feを含む微粒子の観察が容易になる。その一方で、細く絞った高電流密度のビームを試料に照射するため、損傷や局所的な(不均一な)温度上昇に十分注意を払う必要がある。本研究ではこれらの特徴を見極めながら、液相中で発達する自己組織形態の三次元的な特徴を明らかにする。 一方、自己組織化に対する印加磁場の効果については、電子顕微鏡の対物レンズの励磁を変えることで、その検証を試みる計画である。対物レンズの操作に関しては、これまでに金属磁性材料の磁区構造の観察で、試料近傍の磁場制御を行った経験があり、その知見を本研究の実施に活用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
連携研究者、研究協力者との密接な連携により、マグネタイト微粒子のTEM観察に用いる溶媒の選定を当初の予想以上に効率的に進めることができたため、溶媒の購入費、溶媒を包み込むアモルファス窒化ケイ素メッシュの購入費等を抑えることができた。この結果、当初の想定額に対して、未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、液中に保持したマグネタイト微粒子の自己組織化に関わる詳細なTEM観察を実施する。特に試料への印加磁場をパラメータとする系統的な実験を多数行う必要があり、それにともない試料を包埋するアモルファス窒化ケイ素メッシュ等の消耗品を多く購入する必要がある。上記の未使用額は、これらの消耗品購入に利用する計画である。
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