本研究は、コロイド環境にある磁性微粒子を透過電子顕微鏡(TEM)で直接観察し、液相中で起こる自己組織化の基本的性質を理解することを目的とする。実験基盤の確立に努めた昨年度の研究を踏まえ、平成28年度は、クロロホルム溶液中に分散させた25 nm径マグネタイト磁性微粒子の自己組織化形態の観察と、同形態に対する磁場効果の理解をめざし、研究を行った。まずTEMの対物レンズをオフの状態にすることで、試料位置での磁場を概ねゼロに設定し、液中でマグネタイト微粒子がどのような形態を示すかを観察した。実験の結果、マグネタイト微粒子はクラスター状に自己組織化し、粒子の位置関係を維持しながら液体中を浮遊するという事を確認した。クラスター状の組織内部では、静磁エネルギーを減少させるために巨視的な磁束の渦(一種の還流磁区構造)が形成されているため、粒子間の位置関係が一定に保たれるものと解釈される。 続いて対物レンズを強励磁させた状態で同じ試料を観察し、2 T程度の磁場中でどのような組織変化が起こるかを調べた。実験開始直後は、ゼロ磁場観察と同様のクラスター状組織が、液体を包むアモルファス膜に付着する形で残存していた。しかし収束させた電子ビームを試料に照射することで局所的な温度上昇、あるいは微粒子試料の帯電が誘発され、膜に付着していた微粒子が溶液中に解放された。ひとたび溶液中に解放されると、単磁区化した微粒子間の磁気双極子相互作用を反映して、印加磁場方向にチェーン状の組織が成長すると共に、溶液中でブラウン運動的な挙動を示すことが観察された。 以上、磁性微粒子をゼロ磁場環境、および磁場中環境で観察し、医療応用で想定される液体環境で示す自己組織化の基本形態とそれに対する磁場効果を明らかにし、本研究で掲げた主要な目的に対して重要な知見を獲得することができた。
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