研究課題/領域番号 |
15K14155
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大口 裕之 東北大学, マイクロシステム融合研究開発センター, 准教授 (40570908)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 水素化物 / Liイオン / 薄膜電池 / 界面 |
研究実績の概要 |
今年度は、水素化物を固体電解質とする高性能な薄膜Liイオン電池の開発における基礎の構築を目指して、LiH電解質薄膜とSi電極から成る良好な界面作製に取り組んだ。以下に詳細を報告する。 [多孔質Si基板上でのLiH薄膜成長] Li移動抵抗を減少することができる大きな接触面積を持つ電極/電解質界面を作製するために、マイクロスケールの表面微細構造を有するSi基板上でLiH薄膜の成長を行った。Si微細構造は陽極酸化法により形成した。LiH薄膜は、蒸着法で堆積したLi薄膜を加熱融解することによって得られるLi融液を、0.5気圧の水素ガス雰囲気に保持することで成長した。このように、微細構造内部まで浸透できるLi融液から薄膜成長を行うことで、複雑な構造を持つSi基板表面をLiHが均一に覆うことが期待される。 [薄膜Li電池構造の作製] LiH薄膜の上にLi薄膜を蒸着により堆積し、Si/LiH/Li薄膜Li電池構造を作製した。 [大気非暴露測定環境の構築] 水素化物には、水分や酸素との反応性が極めて高い化合物が多く、そのため、水素化物を電解質として応用する本研究における薄膜Liイオン電池の開発に当たっては、作製した試料の電気化学測定を大気非暴露で行う環境の構築が必須である。そこで、成膜装置に取り付けた電気化学測定機構を有する真空評価室の開発を行った。この結果、大気非暴露で、インピーダンス測定や充放電測定などを行うことが可能となった。 [評価] Si/LiH界面におけるLiイオンの出入りを実証するために、薄膜電池構造試料のSiとLi電極間に、最大±4 Vの電位差を与えてサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。ところが、Si電極にLiが挿入される向きに電位差を与えた場合(Li側が正)には、電流がほとんど観察されず、Si/LiH界面でのLiの移動が妨げられていることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
27年度は、高性能薄膜電池の開発において重要な、接触面積の広い電極-電解質界面の作製および、正確な性能評価に必要な大気非暴露電気化学測定環境の整備を完了しており、本研究を推進する基盤を構築することに成功した。一方、当初の計画に反して、Li移動抵抗の小さな良好界面を実現するには至らず、またその原因解明が不十分であった。したがって、進捗状況はやや遅れていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究が現在解決すべき最重要課題は、Si/LiH界面における大きなLi移動抵抗の原因解明と、その理解に基づく抵抗の減少である。そこで初めに、X線回折による不純物相の有無の検証や、電子顕微鏡による界面接触状態の観察など、Si/LiH界面の多角的な評価を予定している。次に、評価結果に基づき、Si電極の表面処理方法やLiH電解質の成長方法を改良して、Li移動抵抗の小さな良好界面の実現を目指す。最後に、充放電特性を評価して、水素化物を電解質とする薄膜電池の可能性を実証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた真空部品の大半を、知人から譲り受けることができたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
27年度の研究により明らかになった、電極‐電解質界面における大きなLi移動抵抗の原因を、28年度は詳細に解明する必要がある。そこで、今年度の予算を、界面の詳細な評価が可能な外部機関所有の特殊な装置の利用費に充てる予定である。また、やはり27年度の研究により、良好な界面を得るためには、電解質として利用している水素化物薄膜の成長手法を改良する必要性が高いことが分かっている。そこで、成長手法の改良に必要な装置開発にも予算を充てる予定である。
|