研究課題/領域番号 |
15K14157
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白岩 隆行 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10711153)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 疲労センサ / 電子タグ / 無線センサ / センサネットワーク / 疲労き裂進展 / Paris則 / 有限要素法 / 構造物ヘルスモニタリング |
研究実績の概要 |
疲労センサタグによる基本的な計測手法を確立するために、タグの構成や形状、基板に用いる材料について検討し、センサタグ単体に疲労荷重を与えることで、考案した原理に基づき疲労損傷の検出が可能であるか検討した。具体的には、損傷記憶センサ部として、ポリイミド基板(厚さ35μm、幅5mm、長さ40mm)に無電解めっきニッケル薄膜(膜厚1μm)を形成したものを提案した。このセンサは対象物に接着剤で貼り付けることで使用し、繰返し荷重を受けた際に、ニッケル薄膜の電気抵抗値が再現よく変化することを利用したものである。センサ特性を評価するために、センサに対して最大荷重15, 20, 30N、応力比0.5として疲労試験を行った。疲労試験の結果、最大荷重が15Nではき裂は発生しなかったが、20Nと30Nでは発生した。き裂は荷重方向に垂直に発生し、金属膜厚が大きいほど、き裂密度が小さくなることがわかった。また、き裂間隔は、膜厚の増加に伴い大きくなった。更に、電気抵抗値は荷重の増加に伴い、増大することを確認した。このことから、電気抵抗値変化には、膜の断面積変化やき裂の有無だけでなく、疲労によって生じるき裂密度の差や、き裂形状の違いなどの要因が存在すると考えられる。これらの傾向についてモデルを作成し、評価することで、電気特性の測定による構造物の疲労センシングにつながる可能性が示された。また無線部として、広域センサネットワークを構築するための3G無線機の製作を行い、省電力化のための設計を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究計画に従い、次の3項目に取り組んだ。(1)疲労センサタグの設計・作製、(2)損傷記憶の理論的考察、(3)構造材料への貼付と疲労寿命の予測、3項目である。 (1)については、予き裂入りの不揮発性メモリと制御用の IC、アンテナ、耐候性カバーから構成される疲労記憶センサタグを提案し、微細な結晶粒を有する金属として、電着ニッケル箔を用いて、試作を行った。さらに、様々な荷重条件で試験を行い、計測可能な応力条件を導くことができた。(2)について、一般に疲労負荷を受けるときのき裂進展挙動は応力拡大係数範囲とき裂進展速度の関係で表すことができ、特に第二段階の関係はParis則と呼ばれる指数則で記述される。今回開発したセンサのき裂進展挙動は、従来のParis則ではそのき裂進展挙動をひとつの関係式で表現できなかったが、応力比の影響を考慮した形に修正したモデルを提案することで、予ひずみを導入したセンサのき裂進展挙動を表現することができた。(3)については、Paris則の式を積分することで、一定応力振幅下の繰返し回数とき裂長さの関係式を導き、さらに対象材の疲労特性(SN曲線)に適用することで、対象物の余寿命を推定する手順を提案した。 また、当初の計画では来年度に行う予定であったが、無線計測についても、低消費電力の3G計測装置の製作を開始した。以上のように、当初の課題に対して十分な結論を得ることができているため、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、(1)センサタグの小型化、(2)グローバルな構造物診断ネットワークの構築、および(2)構造物の劣化損傷度の直接的評価を行う。 (1)について、提案したセンサタグは、すべてフォトリソグラフィ等の微細パターン技術によって作製可能である。そこで、これまでの結果をもとに形状の最適化を行い、タグ全体の寸法を小さくし、利便性を高めることを検討する。 (2)については、多数のセンサタグから構成されるセンサネットワークの構築を行い、広域損傷モニタリングを実現する。センサタグのネットワーク構築が計画通りに進まない場合には、ZigBee 等の低消費電力の無線通信規格を用いて、長期間の連続使用可能なアクティブ型電子タグを作製することを試みる。さらに 3G でインターネット等に接続することで遠隔地モニタリングを可能とする監視システムを構築する。 (3)については、構築したセンサネットワークを実際に供用中の橋梁等へ適用し、実用化への指針を立てる。また腐食環境下など多様な条件における寿命予測にも対応できるように、ACM 型腐食センサや電気抵抗式腐食センサなどを利用して、腐食計測可能なセンサタグを開発する。それらの計測結果を材料の疲労・腐食データベースに照会することで、構造物の劣化損傷の直接的評価を試みる。さらに点検・補修など履歴管理のための電子タグと組み合わせて使用することで、より効率的な寿命管理システムの構築を検討する。
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