表面に一連のFe-Zn系金属間化合物を薄く形成したGA鋼板は防食性に優れるため自動車用鋼板として大量に使用されている.しかし,Fe-Zn系金属間化合物はいずれの5相も結晶構造が複雑で容易に塑性変形するとは考えられず,なぜ,プレス変形後も金属間化合物層が剥離せずに鋼板表面に留まるかは20年以上未解明の問題である.最近の我々のマイクロピラー試験片を用いた研究から,個々の相および相界面の特性が明らかとなりつつある.すなわち,めっき層の主相であるδ1p相は単相では脆性的に破断するものの,めっき層最表面の延性相ζ相と共存すればマイクロクラックを形成しながら擬似的な塑性を示す.この擬塑性は明らかに界面の存在下で誘起された界面誘起擬塑性変形能(IMPP)である.本研究では, このIMPPのメカニズム,発現条件を構成2相の試料サイズに依存する力学特性(降伏強度,破壊靭性)および脆性相の臨界サイズという新規な観点から解明することを目指した. 圧縮軸に平行な界面を持つ2相マイクロピラーでは,変形能を示すΓ相とΓ1脆性相の組み合わせでは脆性的な破断が起こるが,変形能を示すζ相とδ1p脆性相の組み合わせでは,全体として10%を超える塑性変形が可能である.この時,ζ相にはすべり線が,δ1p相には無数のマイクロクラックが形成される.すなわち,δ1p相は単相では脆性的に破断するものの,ζ相と共存すればマイクロクラックを形成しながら擬似的な塑性を示す.このIMPPの発現はδ1p相の層厚に支配され,10μmを超えるとIMPPはまったく発現せず脆性的な破壊が起こり,臨界値として5μmを実験的に解明した.この脆性相の臨界厚さは,脆性相の破壊靭性およびバルクの塑性変形開始応力に依存することを理論的に解明し,金属間化合物層の剥離をさらに抑制する微細組織の調整によるGA鋼板のプレス成形性改善の可能性を示唆した.
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