加工と熱処理を組み合わせた加工熱処理は,微細粒フェライト組織を得るための有効な手段である.特に,母相オーステナイトの加工中に生じる動的フェライト変態を利用した加工熱処理では,粒径1 μm以下の超微細粒フェライト組織を得ることが可能である.動的フェライト変態における変態kinetics,元素分配挙動,超微細粒組織形成過程などを解明していくことは,更なる超微細粒フェライト組織実現のための新規加工熱処理プロセスの開発につながると考えられる.そこで本研究では,バルク試験片全体から回折情報を得ることが可能な中性子線を利用し,その場中性子線回折実験により,動的フェライト変態における元素分配挙動を調べた. 試料としてFe-2Mn-0.1C合金,Fe-2Mn-0.4C合金,Fe-10Ni-0.1C合金を用い,J-PARC / MLFのビームライン19 (匠) にて加工熱処理を行い,その加工熱処理中の動的フェライト変態挙動を高温変形その場中性子回折により評価した. どの合金においても,加工を加えない場合に生じる静的フェライト変態では,フェライトの格子定数は変態が進行しても大きく変化しなかった.一方,動的フェライト変態の場合,変態の進行に伴ってフェライトの格子定数が減少する傾向が確認された.また,圧縮加工後の動的フェライトの格子定数は静的フェライトの格子定数よりも低くなっていた.これらの結果は,動的フェライト変態の初期では炭素はフェライトとオーステナイトに分配しているが,マンガンは分配していないパラ平衡が成り立っており,変態の進行に伴ってマンガンも分配するオルソ平衡に遷移しているということを示唆している.
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