研究課題/領域番号 |
15K14170
|
研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
筒井 智嗣 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主幹研究員 (70360823)
|
研究分担者 |
鬼丸 孝博 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (50444708)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 部分フォノン状態密度測定 / 核共鳴非弾性散乱 / クラスレート化合物 / ラットリング / 熱伝導 |
研究実績の概要 |
Eu含有Ⅰ型クラスレート化合物の先行研究では、Eu-151メスバウアー分光を用いてMHzオーダーの磁気揺らぎの観測が欧米のグループによって報告されている。この先行研究ではこの磁気揺らぎは“ラットリング”によるものであると結論付けられている。その一方で、クラスレート化合物における“ラットリング”は非調和振動の極限である非中心振動モードが熱伝導度抑制機構に寄与していることが国内のグループによって報告されている。これら両者の結果を考慮すると、磁性は磁場によって制御できることから、磁場で熱伝導度が制御できると考えられる。 初年度である今年度はまず熱伝導度抑制機構に直接関わっている“ラットリング”に焦点を当て、核共鳴非弾性散乱による“ラットリング”を担うゲスト原子の部分フォノン状態密度の組成依存性を検証した。欧米で研究が進められてきた試料ではキャリアが多く、国内で研究が進められてきた試料はキャリアが少なく、実験結果の比較検討が困難であった。本研究では、研究分担者によってキャリア数制御された試料に加えて、GeサイトをSiに置換を試料の準備に成功したので、これら3つの試料に対して核共鳴非弾性散乱実験を行った。その結果、キャリアの多少が“ラットリング”に関わるゲスト原子の部分状態密度に影響を及ぼしていることがわかった。 当初予定していなかった成果として、放射光メスバウアー分光によるSm含有カゴ状化合物の価数や磁気相互作用の高分解能計測が可能となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度終了時の進捗状況としては、熱伝導抑制機構に関わる“ラットリング”が磁場に直接関係しないところで顕著な違いが発見できたことが大きな成果であると考えられる。以前から、Eu含有Ⅰ型クラスレートでは欧米グループと国内グループでは試料のキャリア密度の違いがあり、このことが諸物性の統一的な理解を阻んできたとも言える。その意味で、研究分担者が欧米で「標準的な」試料であるキャリア密度の大きな試料の作成に成功したことは、本研究の進捗に大きな影響を与えたと考えている。 今年度行った核共鳴非弾性散乱は計画段階からその実施を考えていたテーマであり、先行する欧米グループが未達成であったキャリア密度とゲスト原子の部分フォノン状態密度の関係は、ゲスト原子のダイナミクスが熱伝導度抑制機構と密接に関わっているという国内グループの指摘を考えると、極めて重要な結果である。この結果によって、格子物性の立場からの熱伝導度抑制機構に関わる部分は目的をほぼ達成できたと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の成果として格子物性に関する重要な知見が得られたので、今後は電子物性に関する知見を得ることに主眼を置いて研究を推進する。電子物性についても先行する欧米のグループではキャリア密度依存性に関する議論は全く進んでいない。しかしながら、今年度得られた格子物性に関する知見を考慮すると、電子物性のキャリア密度依存性に関しても重要な知見が得られることが期待される。このため、磁性を中心とした電子物性に関する知見を得ることを目的に最終年度である今年度の推進方策としたい。さらに、X線吸収分光やメスバウアー分光により“ラットリング”と電子状態の相関に関する知見が得られつつあることから、カゴ状物質に関する総合的な理解を深めるために、多角的な分光法を利用して他のカゴ状物質との類似点・相違点に関する知見についても調べていきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度実施した核共鳴非弾性散乱実験で予定していたビームタイム全体の長さが当初の予定より短く、さらに寒剤の液体ヘリウムの使用量が当初の想定よりも少ない量で研究目的を達成することができた。また、スケジュールの都合で国内学会の秋季大会での成果報告ができなかった。以上のことが、次年度使用額が生じた理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は最終年度であるので、生じた次年度使用額を成果公開に向けた研究分担者及び連携研究者との研究打合せ旅費として充当する。さらに、昨年度関連物質で予定外の成果が得られたので、その成果公開の経費として使用する。
|