本研究では,ウェットプロセスを用いてステンレス鋼表面をマイクロ・ナノ階層構造多孔質化し,その表面を優希コーティングすることによって,水や油に全く濡れない超撥水・超撥油表面の創成をめざした。前年度の研究において,SUS304ステンレス鋼ではアノード酸化皮膜の多孔度が小さく,超撥油表面への応用には多孔度の制御が必要となることが明らかになったので,その検討を中心に研究を行った。 先行研究において,ステンレス鋼のフッ化物含有エチレングリコール電解液中におけるアノード酸化には添加する水の量を0.1 mol/L程度に低減する必要があったが,本研究では,水添加量を0.5 mol/Lとしても電流密度を増大させてアノード酸化することで,多孔質皮膜を生成できることを明らかにした。さらに,水添加量を増やすことで,生成した皮膜の化学溶解がアノード酸化中に進行し,多孔度の大きな酸化皮膜を生成できるようになり,撥水・撥油性に有利なアノード酸化皮膜形態とすることが可能となった。また,水添加量を変えることにより皮膜組成にも変化が生じ,クロムが濃縮した皮膜は水添加量が多いほど生成しやすいことが明らかとなった。これを昨年度見出したエッチングと組み合わせることにより超撥油性の改善を確認した。 エッチングについても昨年度の塩酸-硝酸混合浴を用いた電解エッチングに加えて,塩化第二鉄,リン酸,塩酸を含む水溶液を用いた化学エッチング,フッ化水素酸を用いた化学エッチングも適用し,それぞれ特徴的なエッチング形態を示した。ただし,それぞれ表面組成が異なるため,有機コーティングの条件をそれぞれ検討する必要があることが明らかとなった。
|