9CrODSフェライト鋼をAr3点直上(約800℃)で熱間圧延すると、その後水中に焼き入れてもフェライト組織が生成することから、このフェライトは圧延中に動的フェライト変態で生成したと考え、昨年度は動的フェライト変態がマッシブ変態であるとして、その変態機構を議論した。今年度はマッシブ変態であることを次の2種類の実験から検証した。1点目はEPMAを用いてマッシブ変態領域の炭素濃度を測定し製造時の0.13 wt%が維持されていることを確認した。マッシブ変態は炭素拡散を必要とせず鉄原子のfccからbccへのならび変えだけでおこることから、これはマッシブ変態したことの検証となる。2点目は熱間圧延で導入された転位密度を測定して、熱間圧延材にはマッシブ変態を起こすに必要な駆動エネルギーが蓄積されていることを確認したことである。 以上の結果に基づき、9CrODS鋼ではAr3点以上の温度において、熱間圧延で導入された歪エネルギーを駆動力として、0.044秒という極めて短時間にマッシブ変態機構でオーステナイトからフェライトに変態することを検証した。また、酸化物粒子を含まないF82Hでは、熱間圧延中に動的再結晶が起こり歪エネルギーが解放されるため動的フェライト変態が抑制されることから、マッシブ変態はODS鋼に特有の現象であると考えられる。さらに、マッシブ変態で粗大なフェライト粒が生成される原因は、圧延で粗大に伸長したオーステナイト粒の内部からマッシブ変態でフェライト粒が生成したためである。以上の結果を踏まえ、今年度は特にマッシブ変態で生成した粗大フェライト粒から成る9CrODSフェライト鋼の700℃引張試験を行い、高温強度の発現機構について検討した。
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