Fe-18Cr-8Ni系ステンレス鋼に対して、低温でプラズマ浸炭を行い、耐孔食性の評価と耐食性向上機構の解析を行った。試料は1373Kで30分間熱処理(水冷)した後に、湿式1500番までSiC研磨紙を用いて湿式研磨し、ダイヤモンドペーストで鏡面仕上げを行った。プラズマ浸炭処理は50%Ar-45%H2-5%CH4、90%Ar-10%CH4、98%H2-2%CH4の三種類のガスを用いて、573Kから783Kの温度域で行った。X線回折の結果、いずれのガス組成・温度条件であっても、浸炭により格子定数が増加することが確認された。浸炭層の耐食性を、298Kの非脱気0.1M NaCl中での孔食発生電位により評価した。その結果、H2-CH4ガスを用いて743Kで浸炭処理を行った試験片が最も耐孔食性に優れることを見出した。この際、動電位アノード分極において、孔食の起点となるAl-Mg-Si系とMnSの複合介在物は溶解した痕跡が見られたが、過不働態域よりも低い電位領域において浸炭層母相は溶解しないことが分かった。電位pH図を作成し、純FeとFe3C、および純CrとCr23C6の電気化学的安定性を比較した。その結果、いずれも炭化物の方が、不感性域が広く、炭素固溶により耐食性が高くなることが示唆された。 0.47%の炭素を添加した炭素鋼を試験片として、初析フェライト-パーライト(フェライトとFe3Cのラメラー)組織の耐孔食性を解析した。その結果、初析フェライトはパーライトと比較し、耐孔食性に優れることが分かった。さらに、パーライト中のFe3Cは、アノード溶解しにくく、パーライト組織中に発生した孔食は、フェライト・ラメラーの溶解により発生・成長することが分かった。以上のように、過飽和固溶体を形成する代表的な元素である炭素(C)の合金化により、鋼の耐食性が向上することが分かった。
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