研究課題/領域番号 |
15K14201
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
内田 博久 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (70313294)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 結晶多形 / 多形転移 / 超臨界二酸化炭素 / 薬物 / テオフィリン |
研究実績の概要 |
本研究では,医薬品有機化合物を超臨界二酸化炭素としばらく接触・溶解させた後に減圧する簡易な手法による結晶多形発生機構の解明を目的とする。具体的には,医薬品有機化合物の結晶多形転移が生じた理由が,1) 溶媒(超臨界二酸化炭素)中での自由エネルギー的に安定な構造の析出現象の差異,2) 二酸化炭素の減圧による急激な高過飽和度付与による準安定形の析出,3) その他,であるかを明らかにするために,今年度は超臨界二酸化炭素+医薬用有機化合物(モデル薬物:テオフィリン)の混合系に対する種々の操作因子(温度,圧力,接触時間,減圧速度)の影響を検討した。高圧容器内で所定の温度・圧力に調整した超臨界二酸化炭素とテオフィリンを一定時間接触させ,その後に所定の減圧速度で二酸化炭素を高圧容器から放出した。処理後のテオフィリンを走査型電子顕微鏡(SEM)により結晶形態を観察し,結晶構造を粉末X線回折計(XRD)及び示差走査熱量計(DSC)により分析した。実験条件は,温度323.2,328.2及び338.2 K,圧力12~20 MPa,接触時間14~40時間,減圧速度0.44,0.67及び1.9 mL/sである。テオフィリンには,熱力学的室温安定形Form IV,速度論的室温安定形Form II,高温安定形Form I,準安定形Form III,擬多形(水和物)Form Mの5つの多形が報告されているが,処理前のサンプルは速度論的室温安定形Form IIである。本研究で検討した全ての条件において処理後のテオフィリンはForm IIであり,多形転移は確認されなかった。そこで,容器内の異物に起因した不均一一次核化を誘発させ,それによる多形転移の有無を確認するため,高圧容器内に2~10個の鉄粉(粒径0.1 mm)を混合して実験を行った。しかし,この場合においても得られたテオフィリンはForm IIであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は,研究目標達成のために以下の項目を検討する予定であった。 (1) 超臨界二酸化炭素中の結晶多形転移がin situ観察可能な実験装置の設計・製作: 医薬品有機化合物を超臨界二酸化炭素としばらく接触・溶解させた後に減圧することにより結晶多形を発生させることが可能な実験装置の設計・製作を行う。この実験装置では,種々の温度・圧力の超臨界二酸化炭素中の医薬品有機化合物の結晶構造を把握するために,ファイバー型FT-IRによるin situ測定が可能になるようにする。高圧容器内の医薬品有機化合物のin situ FT-IR測定を行い,計時変化を検討する。その後,所定の流量(減圧速度)に調節して,高圧容器内の二酸化炭素を流出させる。二酸化炭素が完全に流出した後(減圧後),高圧容器内の医薬品有機化合物に対して,走査型電子顕微鏡(SEM)により結晶形態を観察し,結晶構造を粉末X線回折計(XRD),示差走査熱量計(DSC),フーリエ変換赤外分光器(FT-IR)により検討する。本検討事項について,ファイバー型FT-IRによるin situ測定が可能になる高圧容器の開発が困難であり,現時点で開発途中である。 (2) テオフィリンを用いた検討: 医薬品有機化合物のモデルとしてテオフィリンを用いて,(i) 種々の温度・圧力の超臨界二酸化炭素中の結晶構造のFT-IRによるin situ測定,および(ii) 超臨界二酸化炭素+テオフィリンの混合系に対する種々の操作因子(温度,圧力,接触時間,減圧速度)の影響検討,の二項目の検討を行う。本項目については,検討内容(i)は装置が開発途中であり実行されていないが,検討内容(ii)は計画通りに実行した。しかしながら,当初の予想と異なり,テオフィリンの結晶多形の速度論的室温安定形Form IIから熱力学的室温安定形Form IVへの転移が確認されなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,研究目標達成のために以下の項目を検討する。 (1) 超臨界二酸化炭素中の結晶多形転移がin situ観察可能な実験装置の設計・製作: 前年度に開発途中であった医薬品有機化合物を超臨界二酸化炭素としばらく接触・溶解させた後に減圧することにより結晶多形を発生させることが可能な実験装置の設計・製作を引き続き行う。この実験装置では,種々の温度・圧力の超臨界二酸化炭素中の医薬品有機化合物の結晶構造を把握するために,ファイバー型FT-IRによるin situ測定が可能になるようにする。 (2) テオフィリンを用いた検討: 前年度に遂行できなかった種々の温度・圧力の超臨界二酸化炭素中のテオフィリンの結晶構造のFT-IRによるin situ測定の時間に対する経時変化を測定する。また,前年度の検討において,医薬品有機化合物を超臨界二酸化炭素としばらく接触・溶解させた後に減圧する簡易な手法」による結晶多形発生によるテオフィリンの結晶多形転移が確認されなかったが,予備検討では速度論的室温安定形Form IIから熱力学的室温安定形Form IVへの転移が確認されているため,その理由を詳細に検討する。 (3) レゾルシノールを用いた検討: 医薬品有機化合物のモデルとしてレゾルシノールを用いて,(i) 種々の温度・圧力の超臨界二酸化炭素中の結晶構造のFT-IRによるin situ測定,および(ii) 超臨界二酸化炭素+レゾルシノールの混合系に対する種々の操作因子(温度,圧力,接触時間,減圧速度)の影響検討,の二項目の検討を行う。
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