本研究では,我々が見出した「医薬品有機化合物(薬物)を超臨界二酸化炭素としばらく接触・溶解させた後に減圧する簡易な手法」による結晶多形発生メカニズムの解明を目的とする。具体的には,薬物の結晶多形転移が生じた理由が,1) 溶媒(超臨界二酸化炭素)中での自由エネルギー的に安定な構造の析出現象の差異,2) 二酸化炭素の減圧による急激な高過飽和度付与による準安定形の析出,3) その他,であるかを明らかにするために,今年度は昨年度に引き続き超臨界二酸化炭素+テオフィリンの混合系に対する種々の操作因子(温度,圧力,減圧速度および原薬の乾燥状態)の影響を検討した。高圧容器内で所定の温度・圧力に調整した超臨界二酸化炭素とテオフィリンを8 h以上接触させ,その後に所定の減圧速度で減圧(二酸化炭素を高圧容器から放出)した。処理後のテオフィリンを走査型電子顕微鏡(SEM)により結晶形態を観察し,結晶構造を粉末X線回折計(XRD),示差走査熱量計(DSC),フーリエ変換赤外分光器(FT-IR)により分析した。検討した実験条件は,温度313.2~338.2 K,圧力14~22 MPa,接触時間14~40 h,減圧速度0.08~0.39 MPa/sである。テオフィリンには,熱力学的室温安定形Form IV,速度論的室温安定形Form II,高温安定形Form I,準安定形Form III,擬多形(水和物)Form Mの5つの多形が報告されているが,処理前のサンプルは速度論的室温安定形Form IIである。温度,圧力,接触時間および減圧速度を変化させた場合,全ての条件でForm IIの一部がForm IVまたは新たな結晶多形に転移を行っていることがわかった。次に,原薬を24 h以上乾燥させた後に338.2 K,22 MPaの超臨界二酸化炭素中に静置したところ,多形転移は起こらなかった。これより,超臨界二酸化炭素中のテオフィリンの結晶多形転移はテオフィリンに含まれる水分が影響していることがわかった。
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