研究課題/領域番号 |
15K14205
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大村 直人 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50223954)
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研究分担者 |
本多 佐知子 神戸山手短期大学, その他部局等, 准教授 (60514916)
白杉 直子 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (80243294)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 暗黙知 / 撹拌 / 動作解析 / カオス解析 / 調理 |
研究実績の概要 |
本研究では、革新的な撹拌装置の開発のためには、これまでの撹拌翼を出発点とするのではなく、理想の混合状態を出発点としてデチューニング的なアプローチも必要ではないかという考えのもと、日常生活でも撹拌動作を伴うことが多い「調理」に着目した。人間が長年積み重ねてきた撹拌動作における暗黙知を抽出するため、熟練した製菓衛生士が生クリームを撹拌する動作と、一般大学生が生クリームを撹拌する動作を解析し、カオス理論を用いて撹拌動作および、混合メカニズムを数理科学的に明らかにすることで、まったく新しいタイプのっかくはんそうちの開発に繋げようとするものである。 本年度は、動作解析ステージとして、生クリームの撹拌動作を取り上げ、生クリームへの気泡の巻き込み量であるオーバーランを生クリームの仕上がりの評価法とした。熟練製菓衛生師と一般大学生の撹拌動作をCCDカメラで撮影記録し、動作解析ソフトを用いて2次元の動作解析を行った。熟練製菓衛生師、一般大学生ともに、撹拌時間とともに、評価指標であるオーバーランの値が増加し、ある時刻でピーク値をとることがわかった。このピーク値は、熟練製菓衛生師では100%を超えており、良好な生クリームの状態になっていたが、一般学生では、40~60%と低い値となっており、仕上がりの良くない状態となった。また、ピーク値に到達するまでの時間は、熟練製菓衛生師は3分、一般大学生は6分程度かかっており、熟練製菓衛生師は一般学生の半分の時間で良好な仕上がり状態に到達させることがわかった。熟練製菓衛生師の撹拌動作は、回転運動よりもむしろ往復運動を行っており、一方、一般学生は回転運動により撹拌を行っていることがわかった。さらに、撹拌動作に対してリアプノフスペクトラムを用いたカオス解析を行ったところ、熟練製菓衛生師の撹拌は、一般学生よりも非周期的な動作を伴っていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度計画していた動作解析による人間の撹拌動作について、熟練者と非熟練者の撹拌動作の違いを明らかにすることができた。ハンドミキサーなどの電動調理器具を用いた撹拌動作については、未実施ではあったが、人間の撹拌動作から多くの有用な情報が得られ、また撹拌機能充足度の高い動きを明らかにすることができたことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
動作解析のデータをもとに、撹拌機能充足度の高い動きを明らかにすることができたことから、この知見をもとに以下のことを行う。 1) 抽出された自転、往復運動、公転などの要素動作において、周期、速度などの物理量により、定量化を行う。さらにこれらの運動の非定常性や間欠性も定量化しておく。この定量化された物理量を組み合わせた運動モデルを作成する。これにより、コンピュータ上で、撹拌動作が再現できるようにしておく。 2)得られた運動モデル式を用いて、数値流体力学計算コード(CFD)により、混合過程をコンピュータによりシミュレーションする。このとき、自転、往復運動、公転などの要素運動の物理量と非定常性、間欠性などのパラメータを変化させることで、最適な操作条件を探査する。また、撹拌に用いる器具の形状も変化させることによる混合状態の変化も調べる。 3)CFDにより最適化された撹拌動作と撹拌器具により、撹拌操作をマニュアル化し、このマニュアルにしたがい、調理実習生に撹拌動作を再現してもらう。この撹拌動作再現実験により、撹拌機能を充足した理想混合に近い状態が得られるかを検証する。 4)さらに、最適化された撹拌動作をベースにした新奇な撹拌装置の設計を試みる。まず、コンピュータ上で試作を行った上で、実際の装置の試作を行い、混合性能の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
撹拌動作を行ってもらう被験者の人数が想定より少なくても解析ができたため、人件費・謝金の支払が少なくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度については当初の実施計画に加え、撹拌動作中のエネルギー消費に関する考察を行うための、調査費や情報提供に関する謝金を行いたいと考えており、これに前年度繰越金を充当する予定である。
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