研究課題/領域番号 |
15K14220
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
前田 和彦 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (40549234)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 人工光合成 / 水の酸化 / 光触媒 / コバルト / 元素戦略 |
研究実績の概要 |
高効率な水分解光触媒系の構築には、光触媒表面で起こる逆反応を効果的に抑制することが求められる。申請者は最近、ルチル型酸化チタン(以後R-TiO2と表記)が酸素の還元に耐性を示すことに着目し、同材料を光触媒とした水の水素と酸素への完全分解をはじめて実証した。 本研究では、TaONやC3N4といった可視光応答型光触媒に酸素の還元という逆反応に耐性をもつR-TiO2を還元反応部位として組み込むことで、高い逆反応耐性と内部電子移動効率を兼ね備えた新しい水分解光触媒を創出することを目的としていた。しかしC3N4にルチル型TiO2を組み込んだ材料を検討する中で、酸素生成助触媒として添加したCo(OH)2が、当初予想していた助触媒機能ではなく、光吸収機能を発現することを見出した。さらには、C3N4を含まないCo(OH)2/TiO2の融合系が850 nmまでの広域可視光を利用して水を酸化し、酸素を発生する新しい光触媒となることを見出した。これは、地球に豊富な元素のみからなる不均一系光触媒を用いて、800 nm以上の広域可視光で水を酸化した最初の例である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記の成果は、当初全く予想しなかったものであり、850 nmまでの可視光を利用して駆動する光触媒としてははじめての例となる。また、希少な元素を含まず比較的地球に豊富に存在するコバルトとチタンからなる材料で人工光合成の最難関ステップとされる酸素生成反応系を構築できた点は特筆すべきである。以上の理由から、当初の予想以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
Co(OH)2/TiO2融合型光触媒は偶発的に発見されたものであるため、現時点において高い光触媒活性を得るための指針が全く得られていない。そのため平成28年度は、この系を基礎として水の可視光酸化を高効率化するためのガイドラインを確立することを目指す。具体的には、以下の項目を検討する。 1)Co(OH)2の濃度やTiO2の結晶構造、サイズなどを種々変化させた一連の材料群を創出し、材料の構造と光触媒活性の関係を明らかとする。 2)反応メカニズムの理解も高効率化に欠かせないが、この点も現時点で明らかでない。これまでの成果によれば、Co(OH)2からTiO2の電子励起が酸素生成反応の駆動に関わっている。これを検証するため、光電気化学的測定により反応メカニズムを明らかとする。 3)Co(OH)2を担持するだけで、それまで紫外光しか吸収できなかったワイドギャップ酸化物が可視光に応答するようになり、かつ水の酸化光触媒能が付与される可能性がある。そのため、TiO2だけでなく、他の様々な酸化物にCo(OH)2担持を施し、酸素生成光触媒能が発現するかどうかを明らかとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初全く予期していなかった新現象、新光触媒の発見により、良い意味で大幅な計画の変更を迫られたため、27年度内において予算の残額が生じた。これは基金制度を活用し、次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
余剰予算を活用し、メカニズム解明のための電気化学測定用器具、および反応活性評価のための流通系装置を購入する計画である。
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