研究課題/領域番号 |
15K14229
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
久堀 徹 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (40181094)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 蛍光タンパク質 / チオレドキシン / FRET / BRET / 環境センサー |
研究実績の概要 |
本研究では、近年の蛍光タンパク質利用技術、および、その検出技術の発展を最大限に活用するため、我々が作成に成功した環境応答型蛍光タンパク質の開発実績を踏まえて、細胞内の様々な代謝産物の増減をリアルタイムで直接モニターすることの出来る新規細胞内環境モニター蛍光タンパク質を開発するための技術を確立することを目指した。これによって、すでに開発されている細胞内ATPやcAMPのFRETによる測定系を超越する実験系を完成し、ROSやNADPH等の酸化還元物質、グルタチオンやATP,GTPなどの生体分子の変動をリアルタイムにモニターすることを目指した。この目的を達成するため、本研究では、主として次の二項目およびそれに関連する課題について研究を実施した。①酸化還元物質を検知して蛍光が変化する新規蛋白質の開発では、我々がすでに開発した酸化状態で蛍光が急激に消光する蛋白質Oba-Qをベースとして、酸化還元に関わる細胞内低分子と電子の授受を行う蛋白質をOba-Qに融合することで、新規にこれらの細胞内低分子の検出することが出来るシステムの開発を行った。適切な融合タンパク質を用いることで活性酸素種の検出は可能になったが、他の低分子については適切なものを見いだせなかった。②生体内低分子を検知して蛍光が変化する蛋白質のスクリーニングについては、アデニンヌクレオチド、グアニンヌクレオチド、グルタチオン、および、その他の生理活性低分子について親和性を持ち蛍光が変化する蛋白質の作成を試みた。さらに、様々な細胞内環境に対応できるようにルシフェラーゼを融合したBRET型のセンサータンパク質の作成を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①酸化還元物質を検知して蛍光が変化する新規蛋白質の開発では、酸化還元に関わる細胞内低分子と電子の授受を行う蛋白質をOba-Qに融合することで、新規にこれらの細胞内低分子の検出することが出来るシステムの開発を目指した。酸化還元応答蛍光蛋白質として実績のあるroGFPで成功例のあるグルタチオンペルオキシダーゼを融合した蛍光蛋白質では、活性酸素に対する明確な蛍光感受性を得られたが、その他の蛋白質を用いた活性酸素検出系の確立は出来なかった。一方、酸化還元応答蛍光蛋白質自体の開発については、新規にチオレドキシンによって特異的に還元され蛍光変化を示すユニークな蛋白質の作成に成功した(特許出願準備中)。②生体内低分子を検知して蛍光が変化する蛋白質のスクリーニングについては、BRET型のタンパク質のスクリーニングを続けているが、まだ適切な候補蛋白質を得られていない。
|
今後の研究の推進方策 |
酸化還元物質を検知して蛍光が変化する新規蛋白質の開発では、新規に作成したチオレドキシンに特異的に還元されるセンサータンパク質の改良に取り組む。これにより、生体内の酸化還元情報の伝達の鍵を握るチオレドキシンの動態を可視化する実験系が確立できるものと期待している。また、平成27年度までに作成に成功した蛍光色の変化する新規酸化還元応答蛋白質と活性酸素結合蛋白質の融合蛋白質を作成し、細胞内の酸化還元電位の変化をより詳細に測定することの出来る実験系の確立を目指す。また、ルシフェラーゼとの融合タンパク質によるBRETによって環境をモニターできる新たなセンサー蛋白質の開発を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題で作成を目指していた還元力伝達を検出する目的タンパク質の設計および作成に当初計画で想定した以上に時間を要した。平成29年1月時点で目的タンパク質を完成し、大腸菌を用いた発現および精製には成功している。同タンパク質の生化学的・分光学的性質を調べ、同タンパク質遺伝子を植物・光合成細菌の細胞に導入して、還元力伝達を可視化することを計画している。このように、タンパク質の実用化実験が遅れたため、補助事業期間を延長し、次年度に同タンパク質について、特許出願、学会発表、論文執筆を行うこととしたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については、主として生化学実験、分光学実験の消耗品に充当するほか、平成29年9月に熊本大学で開催される日本生物物理学会大会で成果発表を行うための旅費として使用する。
|