細胞内の特定分子を認識し,“細胞内の特定分子を任意の時間で抽出可能とする”前処理プロセス法の構築を目指す.これにより,単一細胞解析の前処理プロセスを簡便化するとともに,現状では実施不可能な同一細胞に対する継時的な細胞内発現分子解析を可能とする唯一の前処理プロセス法を確立する.本年度は,昨年度までに,吸着後,吸着体と目的物質を同時に回収する技術として,脂質薄膜を固定化した浮上性粒子を作製し,脂質薄膜と相互作用する物質の簡便な抽出・回収法の確立を達成している.また,疑似細胞膜を作製し,細胞内の光学異性体のキラル吸着を可能とする手法を確立してきた.今年度は,さらに上記の目的を達成するため,細胞内では酵素活性への関与など生体活動に必須の金属を選択的かつ高収率で回収可能な手法の検討を実施した.また,膜タンパク質や脂質クラスターの抽出時における蛍光標識・解析方法に関して併せて検討した.その手法として,金属受容体を結合させた疑似細胞膜を作製し,脂質分子あたりの金属イオンの吸着率ならびに金属イオンの吸着速度を解析した.その結果,吸着は数分以内で完了し,液液抽出系と比較して,高い金属イオンの吸着率ならびに選択性を得ることに成功した.これは疑似細胞膜の流動性・極性が関与し,金属受容体と金属イオンとの高効率な相互作用を可能としていることを明らかとした.さらに,細胞膜上の膜タンパク質や脂質クラスターの標識方法として,疎水化量子ドットを作製し,細胞膜内への選択的配向について検討した.その結果,膜の流動性や曲率の差異により疎水化量子ドットの存在位置を制御可能であること,つまり,選択的局在化に成功した.これより,細胞膜中の生体分子を選択的に量子ドットで標識することが期待できる.以上より,蛍光標識,抽出,回収法を達成したことから,当初の目的の実現が期待できる.
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