本研究では、基礎科学からバイオテクノロジー分野まで幅広く利用されている基盤材料であるハイドロゲルを細胞培養基材として活用することで、細胞を主要構成要素とする自立的なバイオマテリアルを創出することを目標とした。具体的には、酸化剤を必要としない新たな手法により得られる酸化還元応答型ハイドロゲル内での包括細胞培養により、ヒト肝癌由来HepG2細胞からなる球状細胞凝集体(スフェロイド)を構築し、ゲルの物性によるスフェロイドサイズの制御が可能なこと、単層培養に比べ細胞機能が向上することを明らかにした。また、ハイドロゲルの高機能化と対象細胞種の拡大に向け、ハイドロゲル内への成長因子の固定化が、繊維芽細胞、初代肝細胞ならびにiPS細胞培養における細胞増殖の促進に与える影響を検討した。さらに、昆虫細胞からなる集塊構造の形成に向け、ヤガ科由来Sf9細胞の包括培養ならびにハイドロゲル上での培養によるシート状細胞凝集体(細胞シート)の調製を試みたところ、動物細胞の培養と同様、細胞接着因子を導入したハイドロゲル上において生細胞からなるシート状昆虫細胞集塊構造の構築に成功した。しかしながら、動物細胞と比較して細胞間および細胞―基質間の相互作用が弱い傾向が観察された。そこで、異なる昆虫由来株化細胞数種類について基礎検討を実施したところ、接着性の強い細胞がシート形成に適していることが分かり、昆虫細胞培養においても適切な細胞外基質の導入の必要性を示唆する結果を得た。
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