本研究は、原核生物におけるプログラム細胞死やストレス応答を担うToxin-Antitoxin (TA)システムの分子認識機構を考察し、獲得した知見を核酸編集技術・細胞応答制御に応用することを目的とする。 当該年度においては、Deinococcus radiodurans由来トキシン(MazF-DR)と、そのアンチトキシンMazE-DRに着目し、MazF-DRがRNA配列UACAを特異的に切断すること、その切断活性がMazE-DRにより阻害されること、そして一般的にMazFの標的とされるmRNAのみならずtRNAも切断し、複数の異なるメカニズムを介して細胞内翻訳制御を行う可能性があること、を示した。D. radioduransは世界で最も放射線に強い細菌とされ、加えて乾燥、高温・低温、酸化ストレス等に対する耐性も有する究極の極限環境微生物である。そのMazEFの分子レベルでの詳細な解析は、極限環境下での生存戦略を解明する一助となることが期待される。 また、難培養微生物である硝化細菌由来MazFについても解析を行い、非常に珍しいRNA配列を特異的に認識・切断することを発見した。引き続き難培養微生物のTAシステムの毒性発現・制御機構について検証し、有用な難培養微生物の産業応用に貢献していきたいと考える。 さらに、新たに複数の病原菌由来のMazFを精製し、RNA切断活性を確認した。並行して、これら病原菌のMazEFシステムを利用した細胞外致死因子の探索方法を確立するために、必要な実験を行い、基礎データを積み重ねた。今後、これらの結果を活用し、抗生物質のスクリーニング系の開発につなげることを試みる予定である。 そして、これまでに取得した多種多様なRNA interferaseで構成されるライブラリーを構築し、核酸編集技術の実用化を目指すべく、成果の一部については論文化と共に特許出願を行った。
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