前年度のイオンビーム引き出し実験において、エミッタ電極と抽出電極との間でのショートが多発し安定的にイオンビームを引き出す事ができなかったため、今年度はエミッタ製作においてBoschプロセスを用いた異方性エッチングを長く行うことで貯蔵部をより深く製作した。また、抽出電極となるTEMグリッド電極の保持機構を改良することで、ショート問題を軽減させることに成功した。TEMグリッド電極を用いた予備実験では、TEMグリッド電極の直径が3 mmと小さいことからエミッタ電極数の上限が44であるため、推力を増加させるためにはエミッタ電極をより多く製作する必要がある。厚さ80 umのSUS薄板を化学エッチングすることで抽出電極製作し、エミッタ電極数を200まで増やし電圧電流特性を評価した。エミッタ先端とエクストラクタの電極間距離を0.2~0.4 mmで変化させたところ、以下の事が明らかになった。電極間の低下に伴い電場が強くなることでイオン引き出し開始電圧も低下する。一方、引き出される電流値に関しては、電極間距離ととも電位差が増加することで大きくなる。ただし、エクストラクタへの電流値も増加する。 また、安定してイオンを引き出し可能な電圧領域にはある幅がある。上記電圧領域以上の電圧印加は電流値が不安定になる。なお、エミッタの構造としては、Boschプロセスを用いた異方性エッチングは不可欠となることが分かった。これは等方性エッチングのみで製作した円錐状のエミッタでは、エミッタ間の液溜めとエクストラクタ間で多数のショートが発生し、安定したイオン引き出しが不可能となるためである。また、ビーム発散角の見積から、現状のスケールで製作した電極構造の場合、エミッタのピッチとしては400 um程度までに留める事が必要ということも明らかになった。
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