研究課題/領域番号 |
15K14252
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
田川 雅人 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10216806)
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研究分担者 |
横田 久美子 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 助手 (20252794)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イオンエンジン / 高層大気 / 原子状酸素 / マイクロ波 |
研究実績の概要 |
本研究は超低軌道における高層大気を推進剤とする日本オリジナルのアイデアである大気吸入型イオンエンジン(Air Breathing Ion Engine, ABIE)について、その最重要技術と目されるインテイク技術に的を絞り、その設計指針について数値計算(プラズマおよび分子流)を援用して明らかにすること、さらに実際に試作したインテイクを、地上試験装置で利用可能なパルスビームを用いて実験的評価を行う方法を確立し、ABIEをはじめとする大気吸入型スラスターシステム全般の実現に向けての技術的最難関であるインテイク設計に指針を得ることを目的としたものである。平成27年度はこのうち前者の数値計算的な手法でのインテイク設計とプラズマ生成効率最大化を目指したイオン化室設計を行った。計算には電磁粒子プラズマシミュレーションコードEMSESを用いた。計算の結果、①イオン生成効率はマイクロ波アンテナの電界と磁石の磁界方向を垂直に設計することで、平行に設計した場合の3倍程度増大すること、②マイクロ波波長の1/4の位置に金属メッシュを設置することにより放電室内部に定在波を生成できエネルギー遷移効率を向上できること、さらに③コリメーターの装着が内部分子密度の増大に有効である等の結論を得た。これらの計算結果の実験的な検証は平成28年度に実施する予定であり、そのための準備として、L型アンテナ、金属メッシュ付放電室、および直径3mmのセルサイズを持つアルミニウムハニカム材によるコリメーターの設計・制作等を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始初年度である平成27年度にはモンテカルロ計算ならびにマイクロ波計算を行い、ABIEインテイクの基本設計を行った。数値シミュレーションコードEMSESを用いた計算では、マイクロ波の利用効率向上に向けて、マイクロ波波長の1/4の位置にメッシュを設置することにより放電室内部に定在波が生成されマイクロ波から電子へのエネルギー遷移効率が高くなること、マイクロ波アンテナの方向を垂直方向から水平方向に変更することによりイオン生成効率が増大すること等の計算結果が得られた。また、モンテカルロシミュレーションの結果からはABIEインテイクシステムを構築するにあたって、hyperthermal領域の分子をプラズマ発生領域に収束するためにリフレクターを45度の角度に設定することが最適であること、放電室内に取り込んだ分子の放電室外への逆流を抑制するためにはコリメーター導入が有効であることが明らかになった。 これらの計算結果を実験的に証明するために、神戸大学に現有のレーザーデトネーション装置を用いた実験を試みた。平成27年度にはマシンタイムが十分確保できなかったため、具体的な成果は平成28年度に持ち越されたが、金属メッシュを実装したマイクロ波イオン源や、ハニカムコリメーターを装着したABIEインテイクの試作を完了した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には前年度に設計・製作したABIEインテイクに対してレーザーデトネーション装置を用いた評価実験を行う。ます、平成27年度に設計したABIEを用いて、熱的平衡状態の酸素分子あるいは窒素分子によるプラズマ形成実験を行い、アンテナ方向、メッシュ電極およびコリメーターの効果を確認する。次にマイクロ秒の時間オーダーで流入する原子状酸素パルスで発生する酸素プラズマの過渡特性を測定し、ABIEインテイク特性を計測するためのシステム評価試験を実施する。本実験に用いる原子状酸素発生装置は8 km/sという軌道上におけるABIEへの原子状酸素の流入速度を再現できる反面、パルス動作でありABIE内部で圧力変動が生じる。現在の技術では8 km/sの連続原子状酸素ビームを形成することができないため、本研究では単発の原子状酸素パルスでのインテイク評価を可能とする計測系を構成する必要がある。具体的にはパルスアンプとデジタルオシロの組み合わせによる高応答微小電流計測システムである。これによりマイクロ秒の時間オーダーで流入する原子状酸素パルスで発生するプラズマ過渡特性を測定・評価できるシステムを設計・構築する。これら一連の実験を通して、ABIE用試作インテイクを用いてその基本的な動作特性を明らかにする。分子流入密度が小さい領域でも放電を維持するための条件探索や、限界分子流量の見積もり等を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
予期せぬ高周波増幅器の故障、およびレーザーデトネーション装置マシンタイムの制限により、レーザーデトネーション装置を用いた実験的研究が平成28年にずれ込んだため、主として実験的研究に必要となる予算執行が後ろ倒しになり、結果として平成27度執行額が減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
レーザーデトネーション装置を用いた実験に必要となるデータレコーダーやデジタルオシロ、各種電源等は発注済である。また、マイクロ波導入用の高周波ケーブルは損傷が激しい上、国産品は温度上昇に耐えられないことが危惧されるため、海外の耐熱仕様のケーブルも含めて数種類を発注済であるが、これらは納期がかかるため平成28年3月末現在、未精算状態である。
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