火星探査機はエアロブレーキング時に火星高層大気の主成分である原子状酸素と二酸化炭素の高エネルギー・高密度衝突に曝される。本研究では火星探査の基盤技術として、事前の宇宙材料試験が不可能な火星探査機用材料と火星高層大気との相互作用を地上で検証可能にする技術を世界に先駆けて開発することを目的としたものである。本技術により火星のみならず金星やタイタンなど太陽系の他の惑星(衛星)大気環境における高度な宇宙環境試験ならびに宇宙科学研究を可能とする技術展開が可能となると期待される。
プロジェクト1年目の平成27年度は低地球軌道での原子状酸素シミュレーションで使用されるレーザーデトネーション法に二酸化炭素と酸素を適用して、火星低軌道において高度と共に変化する酸素原子・二酸化炭素環境を再現する可能性について検証した。その結果、二酸化炭素はレーザープラズマ中で分解し純粋な二酸化炭素ビームは形成が困難であるが、エアロブレーキング時の衝突速度(エネルギー)は再現できることなどが示された。
平成28年度はレーザープラズマ内での二酸化炭素分子の解離反応を抑制するため、マイクロ秒レベルでノズル内のガス組成を変化させることが可能になるシーケンシャルパフ方式の設計・製作を行った。これは低地球軌道での原子状酸素シミュレーションで使用されるレーザーデトネーション装置(神戸大学現有)を用いて所望のビームを形成するため、自家設計の変位拡大機構付ピエゾアクチュエータを用いた薄型パルスバルブシステムを2基組み合わせ、プラズマ形成領域と加速領域でガスの傾斜組成を実現するダブルPSVシステムを実現したものである。本システムで形成されたビームを診断した結果、当初設定した条件では二酸化炭素の分解を十分抑制するには至らなかったが、非常に高い自由度でビーム形成を行えることが確認された。
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