研究課題/領域番号 |
15K14254
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
外本 伸治 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80199463)
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研究分担者 |
坂東 麻衣 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40512041)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 運動推定 / 自律飛行 |
研究実績の概要 |
オプティックフローを算出するセンサと多数のオプティックフローを広範囲に統合して運動変数を推定するシステムを実験的に構成した.これは,昆虫の複眼システムを工学的に実現することに相当する.運動パラメターを精度良く推定するには,統合するオプティックフローの領域や方向などを適切に設定することが必要になる.そのために,実験装置と同等の特性を持つシステムをコンピュータの中に構成した.続いて,シミュレーション計算を用いて,小型飛行体が水平飛行をする状態を再現し,下記の項目について調べた. 1.オプティックフローの数を一定にして,狭い領域に高密度のオプティックフローが得られる場合と,広い領域に低密度のオプティックフローが得られる場合の推定精度を比較検討した. 2.画像センサの個数やその方向が推定精度に及ぼす影響を調べ,適切なオプティックフローセンサの搭載法(個数・方向)に対する知見を得た. また,他のセンサとの組合せの一例として,飛行体の角速度をジャイロセンサから得るとした場合に対して,上記の項目がどのような影響を受けるかについて調べた.加えて,計算機シミュレーションから得た特性を実際のシステムで検証することを目的として,オプティックフローセンサを小型飛行体に搭載し,実験的にその性能を調べた.その研究成果は,2つの国際会議にて発表した. さらに,標準的なオプティックフローの運動推定法では飛行体の速度・角速度だけが推定されるが,それら以外のパラメターも推定しようとする一つの試みとして,高度を推定する手法を提案して計算機シミュレーションにてその妥当性を示した.この成果を国内学会にて発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「3.研究実績の概要」で述べたように,これまでにオプティックフローを統合する際のパラメター(統合領域の広さ,オプティックフローの密度,画像センサの数と方向)と精度との関係は,計算機シミュレーションによりほぼ把握できた.ただし,H28年度に想定していた実験検証の一部を前倒しで実施したため,飛行体の運動状態に対しては水平飛行だけにとどまり,少し不十分である. 一方で,実際にオプティックフローセンサを小型飛行体に搭載した実験検証が,一部ではあるが実施できたことは当初の計画以上と言える.特に,実証実験で得られた結果より,オプティックフローセンサの推定精度に対する定性的な傾向が,計算機シミュレーションの結果と一致することが確認できたことは実用的な成果と言える.ただし,当初オプティックフローセンサの精度検証の手段と考えていた,モーションキャプチャを用いた飛行体の速度・角速度の推定には少し問題があることが明らかになった.すなわち,モーションキャプチャは位置・姿勢を高精度に計測することができるが,速度・角速度を求めるには得られた位置・姿勢の結果を微分する必要がある.その際に,画像ノイズや量子化誤差の影響が無視できず,速度・角速度の推定結果は十分に信頼できるとは言えないことが分かった.そのため,別のセンサを用いて,オプティックフローセンサの精度を検証する必要がある. さらに,当初計画では最終年度に実施する予定であったオプティックフローから高度を推定する手法について進展があり,計算機シミュレーションを用いてその実現可能性を示すことができた.これは,当初計画以上の進展と言える.
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に記述したように,一つには,水平飛行以外の飛行条件に対する検討が終わっていないので,これを実施してオプティックフローセンサの全体性能を把握する必要がある.また,当初計画で2年目に予定していた実験装置を用いた検証実験については,すでに初年度に一部実施しているが,精度良く実施することが2年目の大きな課題となる.モーションキャプチャによる飛行体の速度・角速度の推定には精度的に問題があるので,他のセンサ(加速度センサやジャイロセンサなど)を用いて,開発したオプティックフローセンサの精度を実験的・定量的に検証するシステムを準備する必要がある.調整のために多少の時間は必要であろうが,このようなセンサから速度・角速度を推定することは一般的であるので,当初計画したように2年目の期間内に十分に間に合うと思われる.このシステムが準備でき次第,計算機シミュレーションで設定したいろいろな実験条件に対して,検証実験を行う予定である. さらに,当初計画には入っていなかった検証実験を前倒しで実施する中で,オプティックフローセンサを用いて自律飛行させる際に重要となるポイントがいくつか明らかになった.特に,姿勢角・角速度を高速に推定することは,飛行の安定性を確保して自律飛行させるために必要であるが,現在のオプティックフローセンサのサンプリング周波数は十分に高いとは言えない.そのため,安定した自律システムを確立するには他のセンサを用いてオプティックフローセンサの出力を補間することが現実的かも知れない.そこで,サンプリング周波数の影響を調べると共に,他のセンサとの統合法についても研究する.これは,当初計画にある障害物回避運動の実験機検証を実施するためにも必要である.
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次年度使用額が生じた理由 |
検証実験を前倒しで実施する中で,オプティックフローセンサから飛行体の運動を推定し,実験機を安定に自律飛行させる実験機実証が予想以上に大変なことが分かった.安定な飛行を実現するためには,まずは他のセンサと統合することで姿勢角・角速度を高速に推定する手法を開発することが近道と思える.そこで,H28年度以降の実証実験を円滑に行うために,オプティックフローセンサを他のセンサ(加速度センサやジャイロセンサなど)と統合化するために必要な実験的経費(物品費,プログラム開発費,実験費など)として,H27年度の経費の一部を繰り越すことにした.
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度は,オプティックフローセンサを用いて小型飛行体の実験機を安定に自律飛行させることを主な目標の一つにする.そのために,まず他のセンサ(加速度センサやジャイロセンサなど)と統合したシステムの開発を目指し,繰り越した経費をH28年度予算に合算して,物品費・プログラム開発費・実験実施費用などに充当する.また,実証実験や理論解析などを通して研究成果が得られると期待できるので,その成果を発表するための経費として使用する.
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