近年,送受信パルス間のコヒーレント性を利用したコヒーレントドップラー方式による精密な速度計測法が開発されて注目されつつある.これは,受信信号の周波数偏移量を直接計測するのでは無く,受信信号の位相時間変化量から瞬時周波数を求めることから,周波数の直接計測に比べて時間遅れが少なく抑えられるが,一方で位相を計測するために計測時間内における位相の変位量が2πを超える場合に「波数の不確かさ」が生じることになる.この「波数の不確かさの範囲」(位相が2πである速度計測可能な範囲)は,隣接する送信パルス間のパルス時間間隔差分または搬送波周波数差分に反比例するが,この「不確かさの範囲」によって速度が計測できる速度の範囲が決定されることから,速度計測可能範囲を大きく保つためにはこれらパルス時間間隔差分または搬送波周波数差分を出来るだけ小さくする必要がある.しかし,そのためには時間または周波数を精密に制御することが要求されるために,計測装置が高価となることが考えられる. 昨年度は本研究において,送受信パルス間の周波数偏移量を計測する従来方式の速度計測値と計測時における受信信号のSNRを用いて,最適と考えられる「不確かさの範囲」を算出し,その最適な「不確かさの範囲」に従って隣接パルスの送信時間間隔差分を変える適応的なコヒーレント方式ドップラー速度計測法を提案し,同時に特許申請を行った.さらに,提案手法をご利用いただくために,その計測精度と誤差量を解析的および数値的に示した. そこで今年度は,提案手法の解析的および数値的な評価結果を実験によって検証するため,屋内に設置した簡易水槽に計測装置を設置した実験を実施し,本提案手法を用いることで「波数の不確かさ」が小さくかつ精密な速度警告が可能であることを示すことで萌芽研究を終える.
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