研究課題/領域番号 |
15K14265
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
赤澤 輝彦 神戸大学, 海事科学研究科, 准教授 (30346291)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ローレンツ体積力 / 海水・油分離装置 / バラスト水 |
研究実績の概要 |
前年度設計した卵の混合器を作製した.この混合器を従来型の角筒断面の分離装置の入口に取り付け動作をチェックした.この結果からアルテミアの卵の分離評価が難しいことが分かった.研究当初から予定していた分離評価法は,実体顕微鏡を用いて分離した海水に含まれるアルテミアの卵の数を観測し分離性能を見積もる手法であった.ところが,この手法で信頼出来る精度の分離評価を行うためには大量のアルテミアの卵を必要とし,十分な量のアルテミアの卵を用意するためには現在の研究資金では足りないことがわかった.そこで方針を変更し,アルテミアの卵よりも粒径が大きく,塩化物イオンに強いテフロン製のメッシュを用いて容易に海水から回収できる魚卵や植物の種子を用いて分離実験をうことにした.実際に分離対象物にしたものはトビウオの卵,鱈子,胡麻である.これらの対象物にあわせ混合装置の修正も行った.分離実験の結果,これらの対象物は分離装置でほぼ完全に分離できることが分かった.ローレンツ力を利用した分離装置が油だけでなく卵や種という生物の分離にも有用であることが実験的に示せた.つまり分離装置が,船舶のバラスト水中の水生生物を除去できる潜在性を持つことは確認できた. さらに,従来装置よりも分離性のが高いと考えられる円筒型分離装置の作製を引き続き行った.熱積層型3Dプリンターで作製されたABS樹脂の分離装置では漏水対策が難しいことがわかり,レーザーカッターを新たに導入し分離装置をアクリル樹脂で作製することにした.この対策により分離装置の漏水は完全になくなり,分離装置の作製方法はほぼ確立できた.さらに数値計算から明らかとなった分離装置内の電場分布から,設計時に予測できていなかった電流分布の不具合が見つかった。この問題点の解決策を見出し,新たな部品を設計し分離装置に取り付けるため,装置を作製し直した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
魚卵や植物の種子を用いて分離実験を行うことで,ローレンツ体積力を利用する分離装置が船舶のバラスト水中の水生生物を除去できる潜在性を持つことは確認でき,萌芽研究としての目的は達成できたと考えている.一方,魚卵より粒径の小さなプランクトンの卵でどの程度の分離が行えるかについては,分離評価手法の見直しが必要であり,これには生物系研究者の協力が新たに必要であることがわかった.適任な専門家を見つけ,新たな研究組織を立ち上げることで,プランクトンの卵での分離特性の評価を行いたいと考えている. また,分離装置そのものの性能を向上させるため,従来型の角筒断面をもつ分離装置だけでなく,円筒断面をもつ分離装置の製作も行った.円筒型分離装置はほぼ完成した状態になっている.しかしながら,分離実験を行う実験室のある校舎で改修工事が行われたために12月上旬までしか分離評価実験が行えなかった.そのため製作に苦労した円筒型分離装置を用いて実験ができず,角筒型分離装置と円筒型分離装置の分離性能の比較ができていない.
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今後の研究の推進方策 |
研究期間延長の申請で表明したとおり,魚卵や植物の種子を用いて行った分離実験結果を低温工学・超電導学会で発表する予定である. また,校舎の改修が10月に終わる予定である.改修のため倉庫に移動した分離装置を再立ち上げし,円筒型分離装置での分離実験を行いたいと考えている.角筒型分離装置と円筒型分離装置での分離特性の比較を行うことで,円筒型分離装置の優位性を明らかにしたいと考えている. さらに,プランクトンの卵で実験を行うためには,新たに生物系の研究者との連携だけでなく,大量のプランクトンの卵が必要であり,この卵購入のためにもより大型な研究費を獲得し,研究を継続・推進する必要があると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
低温工学・超電導学会の学術講演会は,毎年度5月と12月に開催される。当初は29年度12月の学術講演会で成果報告を行う予定であったが、校舎改修工事のため超伝導磁石を用いた実験が12月以降できないことがわかった。前倒しで様々な実験を行う必要がでたため、12月にこの学術講演会での成果発表を行う時間的余裕がなくなった。平成30年5月に開催される学術講演会で発表を行う成果発表旅費として残金を使用する予定である.なお,同理由で事業期間延長の承認を既に得ている.
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