昨年度12月より今年度11月まで分離実験を行うための実験室が校舎改修工事のため使用できない状態となった.当初の計画通り,これまで得たデータを解析し,5月に低温工学・超電導学会で発表を行った.発表後,座長推薦により低温工学会誌編集委員会から会誌への論文投稿の要請を受けた.しかしながら,実験データに十分信頼できるだけの再現性の検証が行われていないため,編集委員会に再現実験が終了するまで論文投稿を保留していただいた.工事期間中は,分離実験装置を分解した状態で保存するしか方法がなかったため,工事終了後,分解された実験装置を保管庫から移動し再組み立てを行った.新しい実験室に最適化するための装置改良も併せて行ったため,今年度2月に分離実験装置は立ち上がった.その後,本研究で明らかとなった分離効率の良い流路断面形状を持つ分離セルを用いて,トビウオの卵(とび子)を用い分離実験を行い,データの再現性検証を行っている.現在までに得られた結果から,最適な流路形状の分離セルを用いれば1Tという低い磁場でも約90%という高い値でとび子の分離が行えることが確認できた.ローレンツ力型分離装置を用いて,船舶のバラスト水を浄化するような大量の海水を処理するためには,分離器を何重にも並列に配置することになる.すなわち大きな磁場空間が必要となる.分離空間の低磁場化は大きな磁場空間の利用を容易にするため,バラスト水浄化装置の実用化を考える上で不可欠である.つまり,現在までの分離実験から得られた結果は,本分離装置が油だけでなく水生生物の分離にも有用であることを示しているでけでなく,大量の海水処理も可能であることも示唆している.以上のことから,本分離装置が,バラスト水中の水生生物を除去できる潜在性を持つことを実験的に示せた.萌芽研究としての目的を達成できたと考えている.
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