研究実績の概要 |
AIS(Automatic Identification System)は,船舶-船舶間,船舶-陸上局間において,各船舶の位置,速力などに加え航行に関する情報を自動的に送受信するシステムである。2008年以降、AISの導入が進み一定の成果を上げているが,輻輳海域での通信容量の逼迫化への対策や通信機能の拡充が求められている。こうした現状を踏まえ次世代AIS としてVDES(VHF Data Exchange System)の開発が進められている。ここで,現在VDES向けに提案されている通信チャネルは,現行のAISチャネルとは異なるものの,それに隣接連続しているチャネルであるためにVDESによる通信が現行AISの運用を阻害してしまう恐れがある.VDESは現在, 国際航路標識協会などでその仕様が策定中であるが,既存AISに影響を及ぼさない形でAISおよびVDESに割り当てられた周波数帯域の利用効率を最適化することが開発上の課題のひとつとなっている.VDESでは送受信するメッセージの種類に応じて用いる周波数帯を切り替えることが提案されているが,この仕様変更に伴う通信性能の評価は,実機が存在しないために非常に困難な状況にある. そこで,本研究ではVDESを運用した際の通信データの欠損状況や海域の総通信量など統計情報に基づいてVDESアクセス方式の特性を明らかにすることを目的とし,その手段としてVDES通信状況を現実に近い形でシミュレーションできるVDESシミュレータを開発し,東京湾をサンプルとしたVDESデータ通信状況の可視化を試みた.その結果,VDESを用いた通信データが既存のAIS通信に与える影響など,VDESシミュレータを用いることで高い精度でVDESの通信状況を予測することが可能となり,VDES通信容量の推定やVDES通信の分析に有効であるとの見解を得ることができた.
|