研究課題/領域番号 |
15K14299
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
宮島 晋介 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (90422526)
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研究分担者 |
宮崎 尚 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, その他部局等, 助教 (30531991)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 水素生成 / pn接合 / Cu2O |
研究実績の概要 |
今年度はn型Cu2O作製技術の確立を目指して研究を行った。硫酸銅と乳酸を用いた電気化学製膜により作製されるCu2Oは通常p型であるが、溶液のpH調整および塩素ドーピングによるn型化の可能性が報告されているため、各々がCu2Oの電気的特性に与える影響を検討した。その結果、低pH条件(pH約8)での製膜および塩素ドーピング(0.1 M程度の塩化銅添加)により、p型Cu2O膜のキャリア濃度が10の14乗 cm-3台から10の12乗 cm-3台まで減少することをホール測定により明らかにした。浅いアクセプタとして働くと考えられている銅欠損を減少させることができたものと推測される。このようにキャリア濃度の減少が認められたものの、明確なn型化は確認できていない。今後はより広い範囲での条件の探索及び、低pH条件の製膜と塩素ドーピングを組み合わせることにより、n型化の検討を進める。 また、Cu2Oの欠陥の評価として、光音響分光法(PAS)を用いた測定を検討した。PASを用いることにより、導電性基板上に製膜されたCu2Oのサブギャップ吸収の測定が可能であることを明らかにした。PASは導電性基板上の膜特性を直接測定できるという利点を有しているが、我々が使用するPAS装置の測定感度の問題により、高品質なCu2Oの評価は難しいものと考えられる。今後は高感度測定が可能な一定光電流法を用いて、導電性基板から引きはがした薄膜の測定を行い、欠陥評価を進める。 なお、デバイスシミュレーションを用いた検討も進めた。効率の良い光電変換を行うためには、ホモ接合を使用することと共に、高濃度にp型ドーピングを行ったBSF層を用いることが重要であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画では、n型Cu2O作製技術の確立およびCu2Oの欠陥評価技術の確立に重点を置いている。これまでに、電気化学製膜において低pH条件での製膜もしくは塩素ドーピングにより、p型Cu2O正孔濃度が減少することを明らかにしてきた。また、p型Cu2Oと低pH条件で作製したCu2Oの積層構造の電流電圧特性を測定したところ、わずかではあるが整流性を示すことを確認している。これは膜のn型化の可能性を示すものである。現段階ではn型化を明確に確認できていないが、低pH条件と塩素ドーピングを組み合わせることにより、n型化の確認を目指して検討を進めている。 欠陥評価技術については、光音響分光法(PAS)を用いてCu2O膜の評価を行った。PASを用いることで、透明導電膜上に作製したCu2O膜の光学特性の評価が可能であることを明らかにした。しかし、光吸収係数測定の下限値が比較的大きく、PASを用いた低欠陥膜の評価が難しいことも明らかになった。現在は、引きはがした膜の光導電率スペクトル測定を用いて、欠陥評価を進めることを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は引き続きn型Cu2O作製技術の確立を目指して研究を進める。研究実績の概要でも述べた通り、初年度に得られた知見を組み合わせて検討を行う。また、欠陥の少ない膜を作製することが、n型化には重要と考えられる。最近、ある添加物を製膜中に加えることにより、飛躍的にCu2O膜の質が向上するとの報告がなされているため、添加物が膜の欠陥に与える影響についても詳細に検討を行う。また、水素生成デバイスの作製に向けて、デバイスの上部に用いるTiO2およびMoSx系材料作成のための基礎的な検討を行う。また、膜の評価については、一定電流法およびフォトルミネッセンス法による欠陥の評価、XPSによる不純物添加効果の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者がCu2O膜の評価装置用の消耗品等の物品費を計上していたが、今年度はほとんど消耗しなかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
初年度の最後にCu2O製膜のための電源装置に不具合が生じたため、次年度使用分を用いて新たな電源を購入し、実験を進める。
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