昨年度に引き続きn型Cu2O作製技術の確立を目指すとともに水素生成デバイスの作製を行った。昨年度構築した3電極系の製膜装置を用いて、Cu2O製膜時の塩素ドーピングの効果を詳細に検討した。50 mM程度の塩化銅2水和物の添加により、1%程度の塩素がCu2O膜中に取り込まれることが確認された。また、形成される膜の配向性がアンドープ膜とは異なることがX線回折により明らかとなった。フォトルミネッセンス測定からは、塩素ドーピング膜はアンドープ膜より発光強度が小さいこと、アンドープ膜では観測されなかった1.8 -1.9 eV付近の発光が観測されることが明らかとなった。Cu2Oのバンドギャップは2.1 eV程度であるため、この発光はバンド端に近い位置に存在する準位に起因するものと推測される。電気的特性の評価の結果、製膜直後の試料の導電率には塩素ドーピングの影響が確認できなかったが、200℃程度の熱処理後は塩素ドーピング膜が1桁程度高い導電率を示した。これらの膜に対してACホール測定を試みたが、移動度が非常に小さいためか導電型の判定を行うことはできなかった。デバイスの作製においては、光吸収層となるp型Cu2Oの高品質化手法を開発した。130-160℃程度の狭い温度範囲で熱処理を行うと、移動度が1桁以上向上し、少数キャリアの拡散長が3倍程度増加することを明らかにした。この光吸収層を用いて水素生成デバイスを形成した結果、わずかではあるが水素生成反応を確認した。
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