研究課題/領域番号 |
15K14305
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研究機関 | 長岡工業高等専門学校 |
研究代表者 |
荒木 秀明 長岡工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (40342480)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヨウ化物 / 化合物薄膜太陽電池 / 太陽電池 / 薄膜 / 塗布 |
研究実績の概要 |
本研究では,有機溶媒に可溶なヨウ化物光吸収層材料を用いて200℃以下の低温塗布プロセスにより光吸収層を形成することで新規プリンタブル太陽電池の実現を目指した。 前年度,有機溶媒に可溶な非鉛系ヨウ化物光吸収層材料としてBiI3に着目し,変換効率PCE=0.022%の太陽電池素子を得ることに成功した。この成果に基づいて,本年度はBiI3光吸収層薄膜の塗布時の製膜温度を70℃から170℃まで変化させて作製条件の最適化を図った。その結果,製膜温度に依存してBiI3薄膜の結晶配向性や表面形態が変化することを明らかにするとともに,70℃で作製したBiI3薄膜を用いたFTO/緻密TiO2(c-TiO2)/多孔質TiO2(p-TiO2)/BiI3/Spiro-MeOTAD/Au構造の太陽電池素子において,最も良好な光電変換特性を示し,開放電圧0.25V,短絡電流密度0.96 mA/cm2,曲線因子0.42,変換効率0.10%を得た。 さらに,イオン化ポテンシャル測定とバンドギャップ測定から素子構造に対するエネルギーバンドダイアグラムについて検討し,効率が低い原因について検討を行った。TiO2,BiI3,Spiro-MeOTADについて光吸収・透過率測定から,バンドギャップ値はそれぞれ,Eg=3.27,1.84,3.02 eVと見積もられ,イオン化ポテンシャル測定から,価電子帯上端は-7.23,-6.25,-5.21 eVを見積もられた。これらの結果から素子構造に対するバンドダイアグラム検討したところTiO2/BiI3界面におけるエネルギーバンドのミスマッチが変換効率の低い一因であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
BiI3の製膜条件の検討として,塗布時の製膜温度の最適化を行い,製膜温度に依存してBiI3薄膜の結晶配向性や表面形態が変化することを明らかにするとともに,70℃で作製したBiI3薄膜を用いたFTO/c-TiO2/p-TiO2/BiI3/Spiro-MeOTAD/Au構造の太陽電池素子において,開放電圧0.25V,短絡電流密度0.96 mA/cm2,曲線因子0.42,変換効率0.10%を得ることに成功した。塗布製膜条件の最適化により,前年度の光電変換効率0.022%から変換効率を0.10%まで向上させるとともに,イオン化ポテンシャル測定とバンドギャップ測定から素子構造に対するエネルギーダイアグラムについて検討し,TiO2/BiI3界面におけるバンドミスマッチが変換効率の低い一因であることを示唆する結果を得た。 一方,タンデム型太陽電池の実現に向けた準備として,これまでとデバイスを構成する各層の積層順を逆積みとしたガラス/導電膜/ホール輸送層/光吸収層/電子輸送層/電極 構造の素子作製に関して良好な成果が得られず,次年度に向けた課題として残った。 また,前年度に引き続き,鉛フリーヨウ化物光吸収材料の探索を行い,FTO/c-TiO2/p-TiO2基板上にGeI2/CH3NH3IおよびGeI2/CsI積層膜を作製し,窒素雰囲気下においてアニールすることでCH3NH3GeI3やCsGeI3薄膜の形成を試みた。得られた薄膜上にSpiro-MeOTAD/Auを成膜することで太陽電池素子化を行ったところ,いずれの素子においても整流性が得られたが, GeI2/CH3NH3I積層前駆体膜を用いた試料のみ,僅かながら光起電力特性を示し,アニール温度110℃で積層前駆体を反応させた試料において,開放電圧163 mV,短絡電流密度0.120 mA/cm2,曲線因子0.365,変換効率0.007%を得た。
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今後の研究の推進方策 |
塗布可能なヨウ化物光吸収層材料の探索を引き続き行うとともに,すでに光起電力を得ることに成功しているビスマス系ヨウ化物に対して,電子輸送層及び正孔輸送層の選定とデバイス構造の最適化を進め,今年度,課題として残った積層順を逆にしたガラス/導電膜/ホール輸送層/光吸収層/電子輸送層/電極 構造の太陽電池セルについて,作製方法を検討する。 また,シリコン太陽電池をボトムセルとして用い,トップセルとして塗布型ヨウ化物太陽電池を使用したタンデム型太陽電池を試作し,光電変換波長の広域化や変換効率の向上の可能性を検討するため,前年度までのガラス基板上へ形成した成果に基づいて,基板をシリコンに変更し,シリコン基板上に塗布型ヨウ化物太陽電池を形成できるかどうか検討を進める。また,実際に既存のシリコン太陽電池セル上に塗布型ヨウ化物太陽電池を作製し,タンデム型太陽電池実現の可能性を探る。
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