海馬や偏桃体といった脳構造は一般的に、記憶、場所情報、感情などの様々な情報を処理し、多様な機能を発現する。単一脳構造の機能の多様性を理解するために、本研究ではショウジョウバエのキノコ体に着目した。昆虫の記憶学習の中枢であるキノコ体は、正と負の嗅覚連合記憶を制御する。さらに各記憶について、その形成、保持、読み出しといった異なる素過程における各出力神経の重要性を定量化し、この重要性パターンを各素過程の機能コードとして定義することで、機能多様性の理解を目指す。 平成28年度は、キノコ体の異なる記憶の素過程における必要性パターンを調べるために、嗅覚報酬・嗅覚罰記憶の各素過程(形成、保持、読み出し)における各出力神経の必要性を定量した。約20種類の出力神経について、その神経伝達を報酬学習、忌避学習の各素過程特異的に阻害し、記憶学習実験を行った。これにより各出力神経の記憶に対する阻害効果を比較し、各素過程における必要性スコアを定量した。 また、この機能コードを用いて各機能をクラスター解析し、その出力多様性を定量した。さらに、主成分分析を行うことで、各機能の違いを分ける決定因子を推定した。これらの解析により、細胞種レベルでの必要性という観点から、定量的にキノコ体の機能多様性を理解することが可能となった。
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