研究課題
動物は、外部からの感覚刺激がなくても行動を開始し制御するが、自発行動発現の神経メカニズムはよくわかっていない。本研究は、シンプルな脳を持つ線虫を対象にして、自発行動を生成・制御する神経回路メカニズムを明らかにすることを目的としている。線虫はわずか302個のニューロンしかなく、全神経回路接続が記載されている唯一の動物である。行動発現に関わる神経回路を明らかにするためには、行動中の動物の神経活動をリアルタイムで可視化する必要がある。我々は、高速レーザー顕微鏡に自動追尾装置を統合した顕微鏡システムを開発してきたが、さらに操作性に改良を加え、イメージングシステム(ICaST)を確立した。また、頭部神経節ニューロンにG-CaMPあるいはR-CaMPを発現するトランスジェニック線虫を複数系統作出した。線虫は主に前進しながら餌を探索するが、時々自発的に後退する。ICaSTシステムを用いてG-CaMP/R-CaMP発現線虫の行動と頭部神経活動を記録し、前進から後退へのスイッチングに着目して神経活動を解析した。その結果、後退運動の開始前、開始時、および後退運動中に活動が活性化あるいは抑制されるいくつかのニューロンを見出した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、所属研究室で開発された改良型カルシウムプローブを組み込んだ線虫を作成するとともに、ICaSTシステムを開発した。これにより、自由行動中の任意の部位の神経活動を高倍率・高解像度で可視化・解析することが可能になり、自発行動のイメージング実験系が確立されたことは大きな進展であった。さらに神経活動と行動の因果関係を明らかにするために、チャネルロドプシンを発現する線虫を作成して解析を行っているが、特定のニューロンのみを光刺激する実験系についてはさらなる検討が必要である。
光遺伝学的手法、および神経細胞のレーザー破壊等で、行動と神経活動の関連について解析を進める。特定のニューロンにチャネルロドプシン等の光アクチュエータ分子を発現するため、IR-LEGO法も検討し、光遺伝学の実験系を確立する。また、神経系変異体を用いてイメージング解析を行い、自発後退運動の制御に関わる分子を探索する。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
PLoS One
巻: 10 ページ: e0125354
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http://subsi.saitama-u.ac.jp/index.html