研究課題
本研究計画では、これまで中枢神経系での機能がほとんど解明されていないカルシウム動態調節分子の役割を明らかにすることを試みた。この機能分子のシナプス前終末、および、シナプス後細胞それぞれでのシナプス伝達とその長期増強(LTP)や長期抑圧(LTD)などの可塑性における役割と、この分子により調節される細胞内カルシウム動態のシナプス伝達および高次脳機能における役割を明らかにするために、この機能分子のシナプス部位特異的遺伝子改変マウスを作製し、その機能を電気生理学的、生化学的、および、行動学的解析により、分子、細胞、ネットワークおよび個体レベルで明らかにした。まず、平成27年度は、海馬部位特異的にこの分子が欠損する変異マウスの作製を行い、その作出に成功した。これらの変異マウスを用いて、海馬における役割を明らかにするために、海馬スライス標本を用いた電気生理学的解析、および、個体マウスを用いた行動学的解析を行った。電気生理学的解析においては、海馬特異的コンディショナルノックアウトマウスから定法に従って海馬スライス標本を作製し、細胞外電位記録法により興奮性シナプス応答を記録した。通常のシナプス応答には、大きな異常はみられなかったが、短期的、および、長期的シナプス可塑性の一部に異常がある可能性が示唆されるデータを得た。また、行動バッテリーテストを行い、いくつかの項目で個体レベルにおける行動異常を見出した。平成28年度は、これらの結果を確定するとともに、より詳細な解析を進めて、論文を発表する予定である。
2: おおむね順調に進展している
予定していたコンディショナル遺伝子改変マウスの作出に成功し、機能解析もかなり進んでいるため、当初予定していた研究成果を十分に得ることができた。さらに、次年度のための準備も順調に進んでおり、全体としておおむね順調に進展していると判断している。
当初の計画通り、作出したコンディショナル遺伝子改変マウスの機能解析を進め、シナプス伝達やその可塑性における表現型をさらに詳しく解析するとともに、カルシウム動態調節による高次脳機能の制御機構を明らかにする。さらに、生化学的な解析も進め、対象分子の下流での生化学的な調節機構を明らかにすることも試みる。
実験計画が予想よりも効率的に進展したため、本年度は実験補助を雇用する必要もなく、物品費にも余裕が出たことから、次年度使用額が生じた。また、研究内容を公表する段階にはまだないため、この課題に関する学会発表などを行わなかったことから、旅費も生じなかった。
次年度は、機能解析により多くの物品費を使用し、さらに大きく研究を発展させる。それに伴って、実験補助も必要になると思われるので、補助者の雇用にも予算を使用する予定である。論文も発表できるものと思われるので、この課題に関する学会発表も行うことになるため、そのための旅費も使用する予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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巻: 7 ページ: 10861
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巻: 7 ページ: 10594
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http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/NeuronalNetwork/Neuronal_Network/Index_japanese.htm