研究実績の概要 |
線虫C.エレガンスは成虫で302個の神経細胞を持ち、その全神経回路の構造が分かっている。これまでの化学走性を主に観察する研究により、神経回路には冗長性があり、一個または一種類の神経を破壊しても行動にわずかな影響しかもたらさない場合があることが分かっている。そこで、破壊とは逆の再構成実験を進めてきた。線虫の全神経回路のうち、生存、前進後退運動、化学走性行動のそれぞれに必要な最小回路を再構成することを目指した。 unc-64はシナプス小胞の放出に必要なシンタキシンをコードする唯一の遺伝子である。従って、unc-64遺伝子の機能を欠くと化学シナプスの伝達ができなくなる。unc-64を完全に機能を欠失した変異体は致死である。この変異体をベースとして、細胞特異的にunc-64 aフォームのcDNAを発現させることにより神経回路を再構成することを目指した。頭部のコリン作動性神経に発現するunc-17プロモーター、頭部コマンド神経で発現するglr-1プロモーター、GABA作動性神経に発現するunc-47プロモーター、体幹部の運動神経に発現するacr-2プロモーターでそれぞれunc-64aを発現するコンストラクトを作成し、MosSCI法を用いてゲノムに一コピーで挿入した。unc-17pによる発現で、致死性がなくなり生存できるようになった。さらにunc-47プロモーターでは前進後退運動がゆっくり起こった。さらに、unc-17p, unc-47p, acr-2pでの発現によりかなり前進後退運動が回復した。unc-17p, glr-1p, acr-2pでは前進後退に加え、機会刺激への応答も回復した。しかしここまでで発現細胞が多くなりすぎて、発現部位の確認が難しい状況となった。この段階で化学走性行動は回復していないにもかかわらず、非常に多くの神経への発現が必要であることがわかった。
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