研究課題/領域番号 |
15K14316
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 謙一 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (90455395)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳・神経 / バイオテクノロジー / ウイルスベクター / 霊長類 |
研究実績の概要 |
本研究では、ヒトに近縁なモデル動物であり、感覚・運動・認知などの様々な脳機能や、それらを支える神経回路に関する知見が集積されているサル類において、新規のウイルスベクターの開発により全脳的なニューロンへの遺伝子導入手法を実現し、それらを実用的なレベルで確立するための、ベクター開発および導入法の検討を行なっている。今年度は、AAV9ベースのキャプシド改変ベクターをマカクサル新生児へ静脈内導入することにより、従来型を利用した場合と異なり、全脳的なニューロンおよびグリアへの遺伝子導入が実現出来ることを見いだした。ベクター導入から約40日後に灌流固定を行い、AAVベクターに挿入したマーカー蛋白質であるGFP陽性細胞の分布、およびNeuN等の細胞腫マーカータンパク質との共染色を行って導入効率を解析した結果、視床や黒質など一部の領域では高いニューロンへの導入効率が確認され、また、大多数の小脳プルキンエ細胞で遺伝子導入が行われていることが確認されたが、皮質ニューロンへの遺伝子導入効率は1割程度と高くなかった。また、成体への遺伝子導入法の確立を目指し、幼弱サルを用いて注入法などの検討を行った結果、幼若・成体個体における導入効率増強を実現する導入法を得つつある。さらに、良好な結果を得たベクターをげっし類にも適用し、げっし類において簡便に全脳的な遺伝子発現を誘導する手法の開発研究も開始した。また、同法を有用なモデル動物作出に繋げる応用研究として、遺伝性運動疾患モデルを作出するためのベクター作成を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の研究の目的および実施計画欄に記載した、キャプシド改変AAVベクターの霊長類新生児への血管内投与による全脳的なニューロンへの遺伝子導入の実現、霊長類成体への血管内投与による全脳的なニューロンへの遺伝子導入の実現、の2項目において当初見込んだ通りの成果を得ている。また翌年度に本格的に開始するプロモーター制御による細胞種選択的な全脳的遺伝子導入法の確立、全脳的なニューロンへの遺伝子導入技術を利用した遺伝子改変疾患モデル霊長類の作成に関してもベクター作成など当初予定通り準備が進んでおり、研究が順調に進展していると考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
研究は当初の予定通り順調に進展していると考えられるため、今後も当初の予定に従い、前年度確立したマカクサル新生児における全脳的なニューロンへの遺伝子導入に関しては、各領野における導入効率、神経親和性の詳細などの解析を行い論文を投稿する。霊長類成体への血管内投与による全脳的なニューロンへの遺伝子導入の実現に関してもデータを増やし論文投稿の準備を進める。また、導入効率の向上、プロモーターを利用した発現制御などのシステム改良を進め、各発達段階においてより高効率な全脳的遺伝子導入を実現する手法を確立する。また、同法を有用なモデル動物作出に繋げる応用研究として、まず症状を捉えやすい遺伝性運動疾患モデルとして、遺伝性運動疾患であるジストニアモデル作出のためのベクター作成、注入実験を行なうなど、当初計画通り研究を推進する。
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