研究課題
本研究は、皮質形成過程で細胞移動するニューロンの核を粘弾性流体として捉え、高解像生細胞イメージングと力学計測技術を用いて核移動時に発生する力ベクトルを算出し、力の本体となる細胞骨格を同定することで、ニューロン核移動の分子・力学機構の解明を目指している。平成27年度は、顆粒細胞移動のin vitro再構築系の高解像ライブ画像から、移動する核の動的形態ゆらぎの特徴量を抽出する点軌道解析法を確立し、輪郭の曲率変化や回転軸・角速度等の特徴量を画像解析により抽出することに成功した。解析の結果、核回転が核移動と同方向に起こり、共通して微小管モーター分子で制御されることを明らかにした。また牽引力顕微鏡解析(traction force microscopy)を確立し、移動する顆粒細胞移動が周辺基質にもたらす応力場を解析し、応力分布の時間変化と核移動の相関を検証した。蛍光ビーズを混濁した薄層ゲル板をラミニン塗布し、その上で顆粒細胞を移動させてビーズの動きを画像定量解析し、力のベクトルを算出する手法を立ち上げたが、ビーズの分布が不均一になり、焦点外のビーズのノイズが問題となるなど定量解析に支障があった。条件を最適化し、Particle Image Velocimetry(PIV)法でビーズの変位から力ベクトルを算出する手法を確立した。この方法を用いて予備解析を行った結果、核移動と同期して先導突起に牽引力が発生することを見出した。これらの成果をSociety for Neuroscienceなど複数の国際学会で発表した。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は核の動的揺らぎの画像解析を核回転に絞り、点軌道解析法を確立して回転を起こす力の絞り込みに成功した。現在論文発表のための最終データを収集しており、年度内の発表を目指している。牽引力顕微鏡解析は定量解析を障害する予期しなかった問題があったが、ビーズのコーティングなどの工夫により均一に散布する方法を確立し、次年度に向け応力分布解析の準備が整った。研究の進捗は概ね順調であり、期待通りの成果があったと言える。
核回転の分子・力学機構については前年度に解析技術は確立したので、観察と解析を完了させ、年度内に論文発表する。さらに歪み・前進の特徴量抽出と動態の画像解析を行い、牽引力との相関を明らかにする。また、核を牽引する力の分子実態を同定するため、遺伝子ノックダウンや変異分子発現などの分子操作または薬理的阻害実験により分子機能をかく乱した際に核の動的揺らぎや牽引力分布に及ぼす影響を解析する。このような定量画像解析と分子操作技術を組み合わせた核移動のレオロジー解析の基本技術を確立し、年度内に論文の基礎データを収集することを目指す。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)
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