研究課題
本研究の目的は、ヒトiPS細胞から大脳皮質ニューロンとその神経ネットワークを作製することによって、ヒトの神経回路特有の様相を明らかにすることであり、本年度はヒトiPS細胞から大脳皮質ニューロンを作製し、その軸索伸長と分岐形成をin vitroで構築することを目指した。最初にiPS細胞をNoggin存在下で神経幹細胞に分化させ、その後細胞塊を作製することによってニューロンへの分化を促進させる方法を用いた。神経幹細胞やニューロンへの分化過程は、各ステージに発現する分子発現を指標とし、様々な抗体を用いた免疫組織化学的な手法やRT-PCR法により調べた。この培養法で、神経幹細胞の段階ではNestin陽性の細胞が約8割を占め、次のニューロンへの分化段階ではそのマーカーであるTuJ1陽性の細胞が約2割観察された。このようにニューロンに分化した細胞では、分化誘導から数週間後には、Ctip2陽性細胞が出現したことから、大脳皮質深層の細胞に分化していることが示唆された。さらに、神経幹細胞時にenhanced yellow fluorescent protein (EYFP)の遺伝子を導入することにより、少なくとも一部の細胞は錐体型とそれに特徴的な樹状突起形成が見出された。数ミリに及ぶ軸索成長も観察され、その末端では広範囲の枝分かれが形成されることも見出された。以上より、ヒトiPS細胞からニューロンへの分化誘導が生じ、軸索成長、軸索分岐が観察できる実験系が構築された。
2: おおむね順調に進展している
大脳皮質ニューロンの同定にはまだ十分でない点があるが、1ヶ月以上の期間培養し、錐体細胞の形状やその樹状突起形成も見出された。さらに、目的とする軸索成長、引き続く軸索分岐の過程も観察された。
大脳皮質ニューロンである同定基準を明確にし、皮質ニューロンから発する軸索の枝分かれ、プレシナプス形成の過程を調べる。また神経活動依存的な軸索分岐の様相を明らかにする。
当初の申請額より大幅にカットされたため、今年度は神経幹細胞やニューロンへ分化させる規模を小さくすることにより試薬代を抑え、遺伝子導入のための精製プラスミドや抗体は既に調整していたものを用いた。
大脳皮質ニューロンへの分化誘導に必要な試薬、免疫組織化学に用いる各種抗体、定量PCR法に用いる試薬、遺伝子導入用のプラスミド精製試薬の購入にあてる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Developmental Neurobiology
巻: 76 ページ: 323-336
10.1002/dneu.22317
Scientific Report
巻: 5 ページ: 10662
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http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/neurobiol/