研究課題/領域番号 |
15K14324
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
川口 泰雄 生理学研究所, 基盤神経科学研究領域, 教授 (40169694)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 大脳皮質回路 / シナプス / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
大脳皮質回路の接続様式を定量的に記述するには、多様な神経要素が同定できる標本を作成し、そこからの連続超薄切片の電子顕微鏡像を三次元的に再構築する必要がある。しかし、電顕観察での要素同定のためにシナプス前・後両方をDAB染色すると微細構造がマスクされ、接合部面積などの形態情報の定量化が困難になるだけでなく、シナプス自体の同定も難しくなる場合が多い。そこで、私たちは回路構成要素の一つだけをDAB発色し、その他の要素は包埋前に蛍光染色で同定し、この蛍光像と電顕立体再構築との対応をとることで、電顕像で多種類の要素を同定することを目指している。これまでに、前頭皮質で投射先を同定した錐体細胞サブタイプを細胞内標識し、樹状突起全体像を蛍光観察した後にDAB発色し、そこでのシナプス分布解析にダイヤモンドナイフ切削型走査電顕(Serial block-face SEM, SBEM)を適用してきた。しかし、電顕観察中にブロック表面へ電荷が蓄積するために、シナプス微細構造を観察するのに十分な解像度を得られなかった。そこで、本年度は先ず、包埋前の重金属染色法に改良を加えることで、シナプス構造をSBEMで同定できるようにした。次に、樹状突起への入力タイプをDAB発色せずに、電顕像で同定することを試みた。そのために、主要興奮性入力である視床と錐体細胞軸索終末を選択的マーカーで蛍光標識した。異なる蛍光で標識された樹状突起と2種類の軸索終末を、共焦点顕微鏡で立体的に再構築した。その後、錐体細胞だけをDAB発色して、改良した重金属染色を行い、SBEMで取得した連続電顕像から再構築を行った。その結果、シナプス前要素が無染色であっても、各スパインへの入力が視床由来か錐体細胞由来かを同定することができた。この手法は皮質回路におけるニューロンサブタイプ・入力タイプ依存的な結合を明らかにするのに有用だと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
錐体細胞のシナプス結合様式を定量解析するために、多数の連続超薄切片の電子顕微鏡像を効率的に三次元的に再構築する手法(容量電子顕微鏡法)と、複数の神経要素を同時に同定できる蛍光免疫組織化学・共焦点顕微鏡観察をシームレスに行える方向へ研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
走査電顕用の重金属染色はまだ改良の余地があると思われるので、引き続き良い条件を探索したい。これまでは蛍光観察とSBEMをつなぐ技術を発展させてきた。もう一つの容量電子顕微鏡法である自動テープ回収型超薄切片法(automated tape collection ultramicrotomy, ATUM)は包埋後免疫組織化学も適用できる可能性もあり、この導入も進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
走査型電子顕微鏡観察に適した組織ブロック重金属染色法の開発に時間がかかり、連続切片の撮像が遅れたことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
走査電顕用試料作成ための試薬や、切片作成のためのナイフなどの消耗品に用いる。
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