研究実績の概要 |
細胞内染色、免疫組織化学、トレーサーを使って光学顕微鏡で同定した樹状突起や軸索が作るシナプス構造を電子顕微鏡で定量的に記述する手法の確立を目指している。これまでに蛍光標識でニューロンタイプを同定した単一細胞の樹状突起をdiaminobenzidine tetrahydrochloride(DAB)で発色することなく、ダイヤモンドナイフ切削型走査型電顕(serial block-face SEM, SBEM)で同定することに成功し、多数の電顕像から目的の樹状突起を三次元再構築して、シナプス入力を解析できるようにした。DAB染色しないことで、同定した樹状突起のシナプス前・後構造を明瞭に観察できることを期待したが、SBEM観察時の試料への電荷蓄積などによって、シナプス微細構造の同定に支障が起きることが分かった。そこで、SBEMを使ってシナプス構造を定量解析するために適した重金属染色法を探索した。その結果、以下の組織処理法が走査型電顕によるシナプス同定を改善することが分かった:グルタールアルデヒド固定した切片(厚さ、50μm)をオスミウム(2%)とpotassium ferrocyanide(1.5%)の溶液で処理・洗浄した後に、オスミウム (2%)だけの溶液で処理し、lead aspartate染色する(twice osmium plus lead aspartate protocol, TOLA)。この新しい重金属染色法で処理した組織から作成した超薄連続切片を、並行して開発してきた導電性の高いテープに載せ、走査型電顕で観察したところ、興奮性シナプスに比べて同定しにくい、抑制性対称型シナプスの微細構造の解析が可能になった。さらに、マックスプランク研究所との共同研究によって、この新規の組織処理法が61チャネル走査型電顕の観察にも有用であることが分かった。
|