研究課題/領域番号 |
15K14325
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
吉村 由美子 生理学研究所, 基盤神経科学研究領域, 教授 (10291907)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 大脳皮質 / 細胞系譜 / 双方向性神経結合 / 興奮性神経結合 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
大脳皮質のニューロンは特定の細胞と選択的に神経結合し、情報処理の基盤となる神経回路を形成する。これまでに米国の研究グループはレトロウイルスを用いて細胞系譜を可視化し、胎生期に同じ神経前駆細胞から発生した姉妹細胞は、生後に選択的に神経結合を形成することを報告した。最近我々は、蛍光蛋白遺伝子を組み込んだ人工多能性細胞(iPS細胞)をマウス胚に移植してキメラマウスを作製し、先行研究に比べて発生の早い段階で分化した神経幹細胞に由来する細胞群をラベルすることに成功している。そこで本計画では、蛍光蛋白遺伝子を組み込んだiPS細胞をマウス胚に移植してキメラマウスを作製し、細胞系譜が標識された大脳皮質バレル野より切片標本を作製し、4層バレル内の興奮性神経結合を同時ホールセル記録法により調べた。生後9-10日に皮質内のシナプス結合形成が始まる時期には、同じ神経前駆細胞から発生したと考えられるクローン細胞間には稀にしか神経結合が観察されなかった。異なる神経前駆細胞から発生した非クローン細胞間においても同様な結果が得られた。その後の発達過程において、クローン細胞がシナプス結合する割合が一過性に上昇し、さらに発達が進むにつれて双方向性結合だけが維持されることが明らかになった。このようなシナプス結合の一過性の増大とそれに引き続く双方向性結合の形成は、非クローン細胞間にはみられなかった。これらの結果から、生後の大脳皮質における双方向性結合の発達は、胎生期の細胞系譜に強く依存することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画では、iPS細胞を用いた発生工学的技術と神経回路解析のための電気生理学的技術を組み合わせた解析に成功した。その成果として、大脳皮質バレル野において、生後発達後期の双方向性神経結合を形成する細胞群は、胎生期にすでにプログラムされていることを明らかにした。過去の研究において、大脳皮質感覚野の局所神経回路の形成には神経活動や感覚入力が重要であることが報告されているが、上述の発見は、神経活動が始まる以前にも神経回路を規定する分子メカニズムの存在を示唆している。 今回利用したiPS細胞移植により作製したキメラマウスは、細胞系譜を標識できるのみならず、様々な分子をノックアウトしたマウスからiPS細胞を樹立することにより、同じ細胞系譜である細胞群特異的に特定の生命機能分子をノックアウトすることが可能である。現在は細胞認識分子を中心にノックアウトを行い、細胞系譜依存的な神経結合形成に関与する分子を同定する研究に発展させている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は細胞系譜依存性神経結合形成の分子メカニズムを明らかにするために、細胞接着因子やシナプス形成関連分子をノックアウトしたiPS細胞を樹立し、それぞれの分子機能を欠損した場合の細胞系譜特異的神経結合への影響を検討する。また、大脳皮質の機能発達には、遺伝的プログラムにより大まかに形成された神経回路が、生後の環境に依存して精緻化されることが重要であると考えられているので、生後発達期のマウスのヒゲを除去することにより、感覚入力を遮断して飼育すると、細胞系譜に依存して形成された神経結合がどのように調整されるかについて検討する。この解析により、細胞系譜に依存した特異的神経結合の形成に、神経活動に依存した可塑性メカニズムがどのように関与するかを解明することを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞系譜依存的な分子メカニズムの解析に必要なノックアウトマウスの作製に時間がかかったため、次年度での解析が必要になった。
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次年度使用額の使用計画 |
細胞系譜依存的な神経回路解析に必要な実験試薬の購入に使用する。
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