研究課題
大脳皮質のニューロンは特定の細胞と選択的に神経結合し、情報処理の基盤となる神経回路を形成する。これまでに米国の研究グループはレトロウイルスを用いて細胞系譜を可視化し、胎生期に同じ神経前駆細胞から発生した姉妹細胞は、生後に選択的に神経結合を形成することを報告した。最近我々は、蛍光蛋白遺伝子を組み込んだ人工多能性細胞(iPS細胞)をマウス胚に移植してキメラマウスを作製し、先行研究に比べて発生の早い段階で分化した神経幹細胞に由来する細胞群をラベルすることに成功している。そこで本計画では、このキメラマウスの大脳皮質バレル野より切片標本を作製し、4層興奮性細胞を対象に同時ホールセル記録を行い、細胞系譜に依存した神経結合特性を調べた。生後9-10日に皮質内のシナプス結合形成が始まる時期には、同じ神経幹細胞から発生したと考えられるクローン細胞間には稀にしか神経結合が観察されなかった。異なる神経幹細胞から発生した非クローン細胞間においても同様な結果が得られた。その後の発達過程において、クローン細胞がシナプス結合する割合が一過性に上昇し、さらに発達が進むにつれて双方向性結合だけが維持されることが明らかになった。このようなシナプス結合の一過性の増大とそれに引き続く双方向性結合の形成は、非クローン細胞間にはみられなかった。これらの結果から、生後の大脳皮質における双方向性結合の発達は胎生期の細胞系譜に強く依存することが示唆された。さらに、生後発達期に一部のヒゲを除去し、感覚入力を遮断したところ、細胞系譜依存的な双方向性結合の形成が抑制された。従って、発生期の細胞系譜に規定された神経結合は、生後の感覚入力による神経活動に依存して再編されると考えられる。今後は引き続き、神経活動依存的な可塑性の誘導に重要なNMDA受容体を欠損させると、細胞系譜依存的神経結合にどのような影響があるかを調べる。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
BMC Biol.
巻: 14 ページ: 103
10.1186/s12915-016-0326-6