研究課題
プラセボ鎮痛効果とは、薬理作用のない偽薬に対して、患者自身が効果があると「思いこむ」ことで、実際に鎮痛効果が得られることを言う。プラセボ鎮痛効果は、患者自身の「偽薬に対する期待感」によって現れることから、その作用機序には高次脳での情報処理が関わっていることは明らかであるが、その詳細な神経生物学的な基盤は未だに明らかになっていない。これまでにわれわれはパブロフの古典的条件付けを巧妙に利用して、神経因性疼痛モデル動物を対象に、強い鎮痛作用を示しているガバペンチンを連日投与した結果、ガバペンチンの鎮痛効果(US)と投与行為(CS)が条件付けられ、その後プラセボとして投与した生理食塩水に対しても鎮痛効果が現れることを明らかにし、げっ歯類のラットでプラセボ鎮痛モデルを確立することに成功した。そこで今年度は小動物のFDG-PET撮像とSPM解析法を組み合わせた小動物脳機能画像解析法を用いて、プラセボ鎮痛効果を伴う脳内の活動部位の同定を試みた。結果、プラセボ鎮痛効果が認められたラットの前頭前皮質腹内側部(mPFC)や腹外側中脳水道周囲灰白質(vlPAG)の神経活動が上昇することを明らかにした。前頭前皮質腹内側部が報酬の期待(Curr Opin Neurobiol 2010)や条件付け学習(J Neurosci, 2013)に関わること、腹外側中脳水道周囲灰白質(vlPAG)が下行性疼痛抑制に深く関わっていることと考え合わせると、これらの結果はパブロフの古典的条件付けによるプラセボ鎮痛効果は前頭前皮質腹内側部から腹外側中脳水道周囲灰白質を活性化し、鎮痛作用を発揮することを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
計画通りに順調に進んでいる。
昨年度に引き続き、小動物脳機能解析法を用いてガバペンチンによる疼痛抑制に関わる脳内領域と「期待感による」内因性のトップダウン制御回路に関わる脳内領域を区別して同定する。また、関連領域において、muscimolなどの神経活動を制御できる神経作動薬を局所投与し、プラセボ鎮痛効果などの行動学変化を指標をに関連の機能的な神経回路を解析する。
初年度のセットアップが少し遅れていた。
実験は順調に進んでおり、予定通り執行する。
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Cerebral Cortex
巻: 26 ページ: 1580-1589
10.1093/cercor/bhu336.
J Neurosci Res
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